同居のヒロイン達に夢精がバレる俺は、正妻戦争の中心にいるらしい件

本能寺から始める常陸之介寛浩

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第二十五話 兄妹じゃ、ないよね?

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 その日は、月曜の放課後だった。

 空は少し曇っていて、グラウンドでは体育の授業の声が響いていた。
 そんな中、俺と碧純は、図書室にいた。

 理由はただ一つ。

 家じゃ、気まずい空気を中和できないから。

 だからあえて、学校という“兄妹っぽい距離”を保てる場所を選んだ。

「この小説、結構おもしろいよ。地味だけど、登場人物の会話がリアルで」

「ふーん……てか、お兄ちゃんがそういう“地味系青春小説”読むの意外」

「いやまあ、最近は……いろいろあるからさ」

「“いろいろ”って、私とのこと?」

「……うん」

 そのとき。

 後ろから、すうっと誰かが近づく気配がした。

「――なるほど。やっぱり、そういうことだったんだ」

 振り返ると、そこにはいた。

 滝本美羽――俺の元カノ。

 ポニーテールを揺らし、少し笑った顔で、でもその目は冗談じゃなかった。

「ねえ、マカベくん。……いくら“妹”って言ってもさ」

 美羽は、碧純を一瞥して言った。

「距離、近すぎない?」

 沈黙が落ちる。

 碧純は、一瞬だけまばたきをして、何も言わなかった。
 俺も、言葉を探したが、出てこなかった。

 それを見て、美羽は肩をすくめる。

「別にいいよ? 私もう、付き合ってるわけじゃないし。
 でもさ――“兄妹なのに好きになる”っての、よくある話よね。小説とかじゃ」

「それは……」

「で、そのままバレて、全部壊れるんだよね。
 そういう結末、読んだことある?」

 ――ドスン。心に杭を打たれた気分だった。

 けれど、そこで黙っていたのは碧純ではなかった。

「……それでも」

 彼女は、はっきり言った。

「私、お兄ちゃんが好き。……もう、“妹”ってだけじゃ止まれない」

 その告白は、図書室の空気すら止めるほど静かで、
 そして、どこまでも本気だった。

 その日の夜。

 俺は布団の中で、美羽の言葉を思い返していた。

「“兄妹なのに好きになる”って、よくある話よね」

 その先にあるのは、破滅か、それとも――
 それを越える、奇跡のような愛情か。

 わからない。
 でもひとつ、はっきりしてることがあった。

 碧純の言葉を聞いて、
 俺の心は――すこしも否定しようとしてなかった。

 次の日。

 新しい女子生徒が、俺たちのクラスに転校してきた。

「えーっと、本日から転入してきた、如月 明花(きさらぎ・あすか)さんです。よろしくお願いします」

 黒髪ロング、透き通るような白い肌、
 どこか演劇のヒロインみたいな存在感をまとっていた。

 彼女は一礼すると、まっすぐこちらを見た。

 そして――なぜか、俺に向かって微笑んだ。

(……え? なんで俺の名前、知ってる顔してんだ?)

 それが、もう一つの物語の始まりだった。
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