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第二十九話 わたしとだけ、来てくれると思ってたのに
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木曜の放課後。
スマホに届いた通知は、ふたつだった。
【碧純】
「放課後、図書室で。少しだけ、ふたりで話したいことがある」
【明花】
「放課後、理科室裏で。できれば、“ひとりで”来てほしいな」
……終了のお知らせ。
(え、これ、同時刻じゃね!?どっちかに行ったら、もう一方が“負け”扱いじゃん!!)
この日、俺の心は二択で引き裂かれていた。
そして、選んだのは――図書室。
理由なんて、シンプルだ。
約束を先にくれたのは、碧純だったから。
静まり返った図書室。
窓からは薄暗い光。
本棚の奥、いつもの席に、彼女は座っていた。
「……来てくれたんだ」
「……ああ。ごめん。理科室、明花からも呼ばれてたけど、断った」
「ううん。言わなくていい。……来てくれただけで、十分だから」
そう言って笑った碧純の表情は、少しだけ安心したようだった。
でも、ほんの一瞬――どこかで怯えた目をしていたのも、俺は気づいていた。
一方その頃、理科室裏。
俺が来なかった場所には――明花が立っていた。
その肩を、後ろからぽつりと声がかける。
「来なかったね。真壁くん」
声の主は――暁月ひより。
無表情。けれど、どこか妖しい静けさを纏った少女。
「……暁月さん?」
「……君も、真壁くんを呼び出したんだ。私も、昨日。声をかけたの」
「え?」
「でもね、来なかったの。ふふ……。
それなのに、今日も、君を選ばなかった。……なのに、君、笑ってるんだね」
明花は、初めてその時、ぞっとした。
ただの図書委員の地味系女子――そう思っていた彼女の目が、異様な色をしていたから。
「“選ばれない側の気持ち”って、誰も知らないんだよね。
でも私は……ずっと、知ってる。真壁くんが誰と、何をして、どこに行ってるか」
「それ……」
「図書室の棚の裏から、毎日見てたよ。
君と話すときの声、目線、言葉のトーン――全部。……全部、覚えてるの」
そのころ図書室。
碧純は、小さく言った。
「……お兄ちゃん、もしさ。誰か他の子に“選ばれる”ってわかってても、私のこと、見ててくれる?」
「……“選ばれる”とかじゃない。俺が見てたいから、見るんだよ」
「……っ」
彼女の目が潤んだ。
でも、その目は強く、俺の手をそっと掴んだ。
その夜、俺の部屋の窓の外――
学校の制服のまま、マンションの敷地の向こうに、ひとりの少女が立っていた。
顔は見えない。
でも、その手には――俺の捨てたプリントが、握られていた。
「……ねえ、真壁くん。
わたし、“選ばれなくてもいい”って、言ったっけ……?」
スマホに届いた通知は、ふたつだった。
【碧純】
「放課後、図書室で。少しだけ、ふたりで話したいことがある」
【明花】
「放課後、理科室裏で。できれば、“ひとりで”来てほしいな」
……終了のお知らせ。
(え、これ、同時刻じゃね!?どっちかに行ったら、もう一方が“負け”扱いじゃん!!)
この日、俺の心は二択で引き裂かれていた。
そして、選んだのは――図書室。
理由なんて、シンプルだ。
約束を先にくれたのは、碧純だったから。
静まり返った図書室。
窓からは薄暗い光。
本棚の奥、いつもの席に、彼女は座っていた。
「……来てくれたんだ」
「……ああ。ごめん。理科室、明花からも呼ばれてたけど、断った」
「ううん。言わなくていい。……来てくれただけで、十分だから」
そう言って笑った碧純の表情は、少しだけ安心したようだった。
でも、ほんの一瞬――どこかで怯えた目をしていたのも、俺は気づいていた。
一方その頃、理科室裏。
俺が来なかった場所には――明花が立っていた。
その肩を、後ろからぽつりと声がかける。
「来なかったね。真壁くん」
声の主は――暁月ひより。
無表情。けれど、どこか妖しい静けさを纏った少女。
「……暁月さん?」
「……君も、真壁くんを呼び出したんだ。私も、昨日。声をかけたの」
「え?」
「でもね、来なかったの。ふふ……。
それなのに、今日も、君を選ばなかった。……なのに、君、笑ってるんだね」
明花は、初めてその時、ぞっとした。
ただの図書委員の地味系女子――そう思っていた彼女の目が、異様な色をしていたから。
「“選ばれない側の気持ち”って、誰も知らないんだよね。
でも私は……ずっと、知ってる。真壁くんが誰と、何をして、どこに行ってるか」
「それ……」
「図書室の棚の裏から、毎日見てたよ。
君と話すときの声、目線、言葉のトーン――全部。……全部、覚えてるの」
そのころ図書室。
碧純は、小さく言った。
「……お兄ちゃん、もしさ。誰か他の子に“選ばれる”ってわかってても、私のこと、見ててくれる?」
「……“選ばれる”とかじゃない。俺が見てたいから、見るんだよ」
「……っ」
彼女の目が潤んだ。
でも、その目は強く、俺の手をそっと掴んだ。
その夜、俺の部屋の窓の外――
学校の制服のまま、マンションの敷地の向こうに、ひとりの少女が立っていた。
顔は見えない。
でも、その手には――俺の捨てたプリントが、握られていた。
「……ねえ、真壁くん。
わたし、“選ばれなくてもいい”って、言ったっけ……?」
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