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第四十五話 京都、それぞれの想いと夜(修学旅行・一日目)
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10月末。秋の朝。
まだ空気が冷たく残る午前6時、つくば駅前。
駅ロータリーに並ぶ観光バスの前には、クラスメイトたちが集まっていた。
トランクを引く者。お菓子を分け合う者。テンション高く騒ぐ男子。そして、なぜか張り詰めた空気を纏った女子たち。
修学旅行。行き先は――京都、奈良を巡る三泊四日の旅。
「真壁くーん! バス、そろそろ乗り込むよー!」
遠くから先生の声が飛ぶ。俺はスーツケースの取っ手を握り直した。
(……やばい。もうすでに胃が痛い)
理由は単純明快だ。
周囲にいる女子の視線が、やたら刺さる。
右側、制服のスカートを揺らしているのは、妹――いや、碧純。
今日は“妹”じゃない。ただの“女子”として、この旅に来た。
左側、カーディガンに黒スキニーでキメているのは、転校生の如月明花。
旅先でも抜け目のない戦略派。隙を見せない笑顔が怖い。
そして、その後ろ。
黒タイツにゆるふわセーター。小ぶりなスーツケースを引きずりながら無言で俺を観察しているのは――暁月ひより。
さらに最後列、なぜかマントと黒いトランクを肩掛けにして現れたのは……
「第十三の魂の導きに従いし者」こと、霧咲ルナ。
この時点で、すでに事件の匂いしかしない。
「それじゃあ、バスのペアはくじ引きで決めまーす! 男子・女子一列ずつ引いてー!」
その先生の言葉に、場がざわつく。
俺も男子側の列に並び、番号が書かれた札を引いた。
「……6番」
「6番……あ、わたしもだ」
そう言って札を見せたのは――碧純。
「よ、よろしくね、“真壁くん”」
俺の心臓がドクンと跳ねた。
バスの車内。
碧純は俺の隣に座ると、リュックからイヤホンを取り出した。
「はい、片方」
「え?」
「一緒に聞こう。……“好きな人と、旅先で音楽を分け合う”って、少女漫画で読んだ」
耳に入ったのは、静かなピアノのイントロ。
その後、優しい女性ボーカルが、こう歌い出す――
『本当は、ずっと隣にいたのに。
気づかれないまま、“妹”で終わるなんて嫌だった』
「選曲が重すぎる!!」
「ふふ。ねえ、お兄ちゃん……じゃなくて、真壁くん。
今、ちゃんと“隣にいる女の子”として見てくれてる?」
その声と一緒に、彼女の体からふわりと香るシトラス系の柔軟剤と、朝の汗が微かに混じった体臭。
やばい。バスの密室、殺傷力高すぎる。
昼過ぎ。清水寺、嵐山、八坂神社。
観光地を巡る中でも、ヒロインたちの動きは一瞬も油断がなかった。
明花は俺と距離を詰めてくるタイミングを正確に読み、
ひよりは俺の行動ログを脳内に記録し続け、
ルナは鹿に襲われながら「我が呪獣よ……!」と詠唱していた。
――初日だけでこの修学旅行、胃薬が必要なレベルである。
夜。
宿泊先の和風旅館に到着。
男子の部屋と女子の部屋は階が別だったが、廊下での接触チャンスは豊富にある。
「ふふふ……“夜の儀式”の時間ね」
そう呟いたのはルナ。
「勝負は、これから」
明花の目が光る。
「今日は……誰の布団の中で、どんな言葉が交わされるのかな?」
ひよりの声は、まるで予知者のようだった。
そして、碧純は小さく囁いた。
「私は、今日“告白未遂”を終わらせるつもり」
――初日の夜が、静かに、しかし確実に始まる。
(つづく)
まだ空気が冷たく残る午前6時、つくば駅前。
駅ロータリーに並ぶ観光バスの前には、クラスメイトたちが集まっていた。
トランクを引く者。お菓子を分け合う者。テンション高く騒ぐ男子。そして、なぜか張り詰めた空気を纏った女子たち。
修学旅行。行き先は――京都、奈良を巡る三泊四日の旅。
「真壁くーん! バス、そろそろ乗り込むよー!」
遠くから先生の声が飛ぶ。俺はスーツケースの取っ手を握り直した。
(……やばい。もうすでに胃が痛い)
理由は単純明快だ。
周囲にいる女子の視線が、やたら刺さる。
右側、制服のスカートを揺らしているのは、妹――いや、碧純。
今日は“妹”じゃない。ただの“女子”として、この旅に来た。
左側、カーディガンに黒スキニーでキメているのは、転校生の如月明花。
旅先でも抜け目のない戦略派。隙を見せない笑顔が怖い。
そして、その後ろ。
黒タイツにゆるふわセーター。小ぶりなスーツケースを引きずりながら無言で俺を観察しているのは――暁月ひより。
さらに最後列、なぜかマントと黒いトランクを肩掛けにして現れたのは……
「第十三の魂の導きに従いし者」こと、霧咲ルナ。
この時点で、すでに事件の匂いしかしない。
「それじゃあ、バスのペアはくじ引きで決めまーす! 男子・女子一列ずつ引いてー!」
その先生の言葉に、場がざわつく。
俺も男子側の列に並び、番号が書かれた札を引いた。
「……6番」
「6番……あ、わたしもだ」
そう言って札を見せたのは――碧純。
「よ、よろしくね、“真壁くん”」
俺の心臓がドクンと跳ねた。
バスの車内。
碧純は俺の隣に座ると、リュックからイヤホンを取り出した。
「はい、片方」
「え?」
「一緒に聞こう。……“好きな人と、旅先で音楽を分け合う”って、少女漫画で読んだ」
耳に入ったのは、静かなピアノのイントロ。
その後、優しい女性ボーカルが、こう歌い出す――
『本当は、ずっと隣にいたのに。
気づかれないまま、“妹”で終わるなんて嫌だった』
「選曲が重すぎる!!」
「ふふ。ねえ、お兄ちゃん……じゃなくて、真壁くん。
今、ちゃんと“隣にいる女の子”として見てくれてる?」
その声と一緒に、彼女の体からふわりと香るシトラス系の柔軟剤と、朝の汗が微かに混じった体臭。
やばい。バスの密室、殺傷力高すぎる。
昼過ぎ。清水寺、嵐山、八坂神社。
観光地を巡る中でも、ヒロインたちの動きは一瞬も油断がなかった。
明花は俺と距離を詰めてくるタイミングを正確に読み、
ひよりは俺の行動ログを脳内に記録し続け、
ルナは鹿に襲われながら「我が呪獣よ……!」と詠唱していた。
――初日だけでこの修学旅行、胃薬が必要なレベルである。
夜。
宿泊先の和風旅館に到着。
男子の部屋と女子の部屋は階が別だったが、廊下での接触チャンスは豊富にある。
「ふふふ……“夜の儀式”の時間ね」
そう呟いたのはルナ。
「勝負は、これから」
明花の目が光る。
「今日は……誰の布団の中で、どんな言葉が交わされるのかな?」
ひよりの声は、まるで予知者のようだった。
そして、碧純は小さく囁いた。
「私は、今日“告白未遂”を終わらせるつもり」
――初日の夜が、静かに、しかし確実に始まる。
(つづく)
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