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第四十四話 “兄妹”って言葉、もう使わない
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水曜日。昼休み。
教室の空気は静かだったが、俺の心は嵐のようだった。
昨日の夜――霧咲ルナが真壁家にやって来た。
それだけで十分事件なのに、
帰宅したあとの碧純の表情が、今も脳裏から離れなかった。
(“妹としてじゃなく、恋人として選ばれたい”って……そう言ったのに)
その想いを、俺は、どう扱えばいいのか分からなかった。
その昼、事件が起きる。
――教室の窓側で、**ルナの“魔眼暴走事件”**が発生した。
「くっ……我が左眼が疼く……抑えきれぬッ……!」
「ちょっ……誰かルナ止めて!!また机に詠唱刻んでる!!」
教卓に刻まれた謎の魔法陣。
騒然とする教室。
「落ち着いてください霧咲さん!暴走抑制術式をッ!」
「君も乗るなよひよりッ!!」
そしてその混乱の中で、
静かに、でも確かな足取りで前へ出たのが――
碧純だった。
「ルナさん。そこ、私のお兄ちゃんの席なんだけど?」
「お、お兄ちゃん……?」
その言葉に、教室が一瞬だけ静まり返った。
そして次の瞬間、碧純は、
胸元のリボンを解き、制服の襟をピンと整えた。
「――もう、“お兄ちゃん”って呼ぶの、やめる」
「……え?」
「私、今日から、“妹”って立場を捨てる。
このままじゃ、いつまでも“家族”って枠に甘えて、
好きなのに、届かないふりしてるだけだから」
その言葉に、
ルナも、ひよりも、明花も、黙り込んだ。
彼女の決意の言葉が、あまりにも強くて真っすぐだったから。
「私の名前は、碧純(あおすみ)。
同じクラスの、ただの“女の子”。
でも、好きな人がいて、その人を絶対に誰にも渡したくないと思ってる」
彼女は、俺をまっすぐ見た。
「――真壁くん。“妹”じゃなくて、“私”を見て」
その時、ふわりと香ったのは、
碧純の首筋から立ち上る、石鹸と肌の体臭が混ざったような匂い。
秋の乾いた空気の中でも、
それは俺の鼻腔に強く残って、忘れられなかった。
教室は静まり返ったまま。
でも、もう誰も彼女を“妹”とは呼ばなかった。
放課後。
屋上で、俺は彼女と並んで立っていた。
「驚いたよ……まさか、あんな風に言うなんて」
「……私も。言ってから、手がずっと震えてた」
俺は、彼女の手をそっと取った。
「でも、かっこよかった。ちゃんと、響いたよ。
“妹”じゃなくて、“女の子”として――お前を見ようって、改めて思った」
そのとき、ほんのりと感じたのは、
彼女の掌から滲む、淡い汗の香り。
それは、他の誰でもない――
“碧純という存在”のリアルな匂いだった。
(つづく)
教室の空気は静かだったが、俺の心は嵐のようだった。
昨日の夜――霧咲ルナが真壁家にやって来た。
それだけで十分事件なのに、
帰宅したあとの碧純の表情が、今も脳裏から離れなかった。
(“妹としてじゃなく、恋人として選ばれたい”って……そう言ったのに)
その想いを、俺は、どう扱えばいいのか分からなかった。
その昼、事件が起きる。
――教室の窓側で、**ルナの“魔眼暴走事件”**が発生した。
「くっ……我が左眼が疼く……抑えきれぬッ……!」
「ちょっ……誰かルナ止めて!!また机に詠唱刻んでる!!」
教卓に刻まれた謎の魔法陣。
騒然とする教室。
「落ち着いてください霧咲さん!暴走抑制術式をッ!」
「君も乗るなよひよりッ!!」
そしてその混乱の中で、
静かに、でも確かな足取りで前へ出たのが――
碧純だった。
「ルナさん。そこ、私のお兄ちゃんの席なんだけど?」
「お、お兄ちゃん……?」
その言葉に、教室が一瞬だけ静まり返った。
そして次の瞬間、碧純は、
胸元のリボンを解き、制服の襟をピンと整えた。
「――もう、“お兄ちゃん”って呼ぶの、やめる」
「……え?」
「私、今日から、“妹”って立場を捨てる。
このままじゃ、いつまでも“家族”って枠に甘えて、
好きなのに、届かないふりしてるだけだから」
その言葉に、
ルナも、ひよりも、明花も、黙り込んだ。
彼女の決意の言葉が、あまりにも強くて真っすぐだったから。
「私の名前は、碧純(あおすみ)。
同じクラスの、ただの“女の子”。
でも、好きな人がいて、その人を絶対に誰にも渡したくないと思ってる」
彼女は、俺をまっすぐ見た。
「――真壁くん。“妹”じゃなくて、“私”を見て」
その時、ふわりと香ったのは、
碧純の首筋から立ち上る、石鹸と肌の体臭が混ざったような匂い。
秋の乾いた空気の中でも、
それは俺の鼻腔に強く残って、忘れられなかった。
教室は静まり返ったまま。
でも、もう誰も彼女を“妹”とは呼ばなかった。
放課後。
屋上で、俺は彼女と並んで立っていた。
「驚いたよ……まさか、あんな風に言うなんて」
「……私も。言ってから、手がずっと震えてた」
俺は、彼女の手をそっと取った。
「でも、かっこよかった。ちゃんと、響いたよ。
“妹”じゃなくて、“女の子”として――お前を見ようって、改めて思った」
そのとき、ほんのりと感じたのは、
彼女の掌から滲む、淡い汗の香り。
それは、他の誰でもない――
“碧純という存在”のリアルな匂いだった。
(つづく)
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