同居のヒロイン達に夢精がバレる俺は、正妻戦争の中心にいるらしい件

本能寺から始める常陸之介寛浩

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第五十五話 風を切って、再会のシグナル(姫宮千夏、参戦)

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夕暮れの並木道に、爆音が響き渡る。

 千夏がヘルメットをかぶり直し、俺の前で原付バイクのエンジンをかけた。
 相変わらずのカスタム仕様、うるさいマフラー、そしてピンクのステッカー。

「乗んな、真壁」

「……え、いや、制服でタンデムはさすがに――」

「男がグダグダ言わない!」

 有無を言わさず、背中を引っ張られる。
 そして次の瞬間、俺は千夏の背中にしがみついていた。

 スロットルが開かれ、風が体を包む。
 髪がなびき、視界が揺れる。
 それでも、不思議と怖くはなかった。

「お前さぁ……変わったな」

「そりゃこっちのセリフだよ。どこのギャルゲーの主人公だっての」

「……別に、望んでこうなったわけじゃない」

「でも、モテてるんでしょ? お姉さん、焼きもち妬いちゃう」

 後ろから声をかけられて、耳がくすぐったくなる。

 そしてそのまま数分、バイクは町を抜け、小さな河川敷の土手へ出た。

 川沿いのベンチに腰掛け、千夏が缶コーヒーをふたつ取り出した。

「お前、今……誰が好きなんだ?」

「……いきなり直球だな」

「それなりに年上だもん。遠回しに聞けないタチなんだよ」

 缶を開けながら、千夏の横顔は思いのほか真剣だった。

「修学旅行でさ、いろいろあって。誰のことも選べなかった」

「ふーん……優しいふりして、誰も選ばないのは、全員を傷つけるって知ってる?」

 千夏の言葉は鋭くて、でも優しかった。

「でもね、真壁。あんたが“決められない”のは、まだ“誰にも恋してない”からだよ」

「……それって」

「うん。恋は、いつかドンって来るの。事故みたいに。ほら、あたしみたいなのが急に来るようにね」

 そう言って笑う千夏。
 その笑顔には、確かな“覚悟”がにじんでいた。

「私はあんたに惚れる覚悟できてるよ。だから……戻ってきた」

 風が吹いた。
 河川敷の草が揺れる。

 そして、千夏の体からふわっと香ったのは、
 ガソリンの微かな匂いと、風呂上がりのシャンプーが混ざった体臭。
 どこか懐かしくて、少年時代を思い出させる匂いだった。

 その夜。
 自宅の部屋。

 スマホには、いつものように未読が並んでいた。

【碧純】「おかえり。ご飯、温めてあるよ」

【明花】「今度こそ、私のターンね」

【ひより】「観察再開。対象が急増している件」

【ルナ】「新たな敵性ヒロインの波動、確認。討伐儀式の準備を」

 そして、その中にひとつ、新しい名前が加わっていた。

【千夏】「ちゃんと寝ろよ。あんた、朝は弱いんだから」

 通知の光が消えても、胸の中で誰かの言葉が残り続けた。

(……誰に惚れるのか、じゃない。
 “誰の前で、本当の自分でいられるか”なのかもしれない)

 その思いと一緒に、眠りへ落ちていく――

(つづく)

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