同居のヒロイン達に夢精がバレる俺は、正妻戦争の中心にいるらしい件

本能寺から始める常陸之介寛浩

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第五十七話 戦場の教室、恋と火花のインターバル

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火曜日、昼休み。

 教室内の空気が、明らかにいつもと違っていた。

 千夏が現れた瞬間、空間の温度が上がった気がする。
 視線の集中、ざわめき、密やかな嫉妬と好奇心。

「お前んとこ、普通の学校って聞いてたけど……ずいぶん濃いな」

 教室の後ろ、窓際の空いた席に腰を下ろした千夏は、ぽつりと呟いた。

 その言葉を聞いて、真っ先に反応したのは――如月明花だった。

「“普通の学校”じゃ満足できないタイプの方かしら?」

 笑顔を浮かべながら、ピリッとした声色。
 その視線の裏には、“この場の秩序を乱す者”への警戒が光っていた。

「んー? 別にケンカ売りに来たわけじゃないよ。ちょっと、弟分に会いに来ただけ」

「弟分……?」
 ひよりが目を細める。

「家庭教師時代に、よく勉強教えてたのよ。ちっちゃい頃から、なーんか気になる奴でさ」

 明花、ひより、碧純。
 全員の視線が俺に刺さる。

 正直、胃が痛い。

(頼むから、この昼休みだけでも時間止まってくれ)

 「んで、どこ座ればいいんだ?」

 千夏が空いてる席を見回すと、何を思ったか、明花が立ち上がった。

「私の席、譲ってあげる。ちょうど席替え希望してたし」

「へぇ……優しいじゃん」

「ええ、優しいの。とくに、真壁くんの周囲の整理には」

 バチッ。
 電撃が走るような無言の火花。

 ひよりはその様子をじっと観察していたが、やがて一言だけ呟いた。

「これは新しい観察ログが必要だね……」

 放課後。

 俺が昇降口で靴を履いていると、千夏がバイクのヘルメットを片手にやってきた。

「乗ってく?」

「いや、それ学校で言っちゃダメなやつ」

「ちょっとだけ、寄り道しようぜ。あんたに、ちゃんと話しておきたいことがある」

 断る理由もなく、そのまま俺は連れていかれた。

 向かった先は、河川敷のベンチだった。
 昨日と同じ場所。

「なあ、真壁」

「ん?」

「今日一日、お前の教室見てて思ったけどさ。
 ……本当に、あんたの周りの子たち、ガチで惚れてるんだな」

「それは……まあ、俺も、ちゃんと考えてる」

「そりゃいい。だけど――」

 千夏は自分の缶コーヒーを見ながら、ぼそりと呟いた。

「誰かに選ばれるのを待つのって、意外とつらいんだよ。
 自信があるように見えても、内心はずっと揺れてる。……あたしも、例外じゃない」

 その言葉に、俺は胸の奥を刺されたような感覚を覚えた。

 彼女の笑顔の裏に、見えていた“揺れ”。
 たしかに、今日の千夏は強がっていただけかもしれない。

「……ありがとな、言ってくれて」

「……別に、礼はいいよ」

 そのまま、ふたりは黙って川を眺めていた。
 川風に混じるのは、千夏の髪と、ほのかに香る汗の匂い。
 穏やかで、でも何かが始まる前の静けさのようだった。

(つづく)

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