同居のヒロイン達に夢精がバレる俺は、正妻戦争の中心にいるらしい件

本能寺から始める常陸之介寛浩

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第六十八話 揺れる昼休み、交差するまなざし

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昼休み。

 俺と碧純は、二人で屋上にいた。
 春以降、少しずつ暖かくなってきた風が心地よく、昼食を広げるにはちょうどいい気温だった。

 今日は、彼女の手作り弁当。
 玉子焼き、ブロッコリーの胡麻和え、そして甘辛い唐揚げ。
 まるで家庭的な少女漫画のような内容に、俺は内心驚いていた。

「……美味い」

「ほんと? よかった」

 碧純は、ほんの少し顔を赤らめながら箸を動かしていた。
 そんな様子が妙に可愛くて、視線を逸らしたくなる。

 だけど。

「……やっぱり、付き合ってるんだね」

 突然の声。
 振り返ると、屋上の入口に立っていたのは——暁月ひより。

「ひより……」

 碧純の手が、ぴたりと止まる。
 静かな緊張が、空気を一気に変えた。

 ひよりはゆっくりと歩いてきて、俺たちの正面に立つ。

「観察対象の変化報告。真壁くんと碧純ちゃんの関係は、ステータス“交際中”に移行したと判断します」

 そんな風に言いながら、ノートをパタンと閉じた。

「だから、もう観察やめる。今日で終わり」

「……ひより」

「私の好きは、記録じゃなくなった時点で、もう“結末”を迎えてたんだよね」

 ひよりは碧純の方を見て、少しだけ笑った。

「……おめでとう。ちゃんと“選ばれたヒロイン”になれたね」

 碧純も静かに答える。

「ありがとう。……でも、私の方こそ、ずっとあなたに助けられてた」

 二人の会話に、俺は口を挟めなかった。
 ただ、ひよりが歩き去る後ろ姿を見つめることしかできなかった。

 午後の授業。

 俺はひよりの席を、何度も見てしまっていた。
 彼女は相変わらず淡々とノートを取り、時折、窓の外を眺めるだけだった。

 その横顔には、もう観察者の鋭さはなかった。

 ただ、ひとりの女の子としての、静かな寂しさがあった。

(俺は……それに、何もできなかったのか)

 その疑問が、胸の奥に残ったまま、時間だけが過ぎていった。

 放課後。

 昇降口で靴を履いていた俺のところへ、碧純がやってきた。

「今日は、一緒に帰らない?」

「……ああ」

 俺たちは並んで歩き出す。
 でも、途中でふと、碧純が呟いた。

「ひよりさん、強いよね」

「……ああ」

「私は、彼女のこと……ちょっとだけ、うらやましいって思ってた」

「なんで?」

「だって、あんなに素直に“好き”を言えるなんて、かっこよかったもん」

 その言葉に、俺は答えられなかった。

 ただ、碧純の手を強く握り直す。
 彼女は少し驚いた顔をして、それからふっと微笑んだ。

「……ありがと」

 繋いだ手が、少しだけ熱を帯びていた。

 誰かの想いを踏み越えて進むことは、怖い。
 でも、それでも“前に進む”ことが、今の俺たちにできる答えだった。

(つづく)

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