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第六十九話 彼女と過ごす、秘密の放課後
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金曜日。
放課後のチャイムが鳴り、教室が一気にざわつく。
友人たちは部活へ、あるいは駅へと足早に向かっていくなか、俺はゆっくりと立ち上がった。
教室の隅で待っていたのは、碧純だった。
制服の上にカーディガンを羽織り、手にはトートバッグ。
その表情は、どこか期待と緊張が入り混じっていた。
「……今日は、ちょっと寄り道、しない?」
「どこに?」
「……秘密」
そう言って微笑む彼女の顔に、抗えるわけがなかった。
向かった先は、駅から三つ先のショッピングモールだった。
平日の夕方、人はまばら。
だけど、イルミネーションの飾り付けが始まっていて、空気には微かに冬の匂いが混じっていた。
「ここ、好きなんだ。人が少なくて、静かで……それに」
碧純は、少し照れながら俺の腕をそっと掴んだ。
「……ふたりで歩くの、初めてでしょ?“デート”って呼べるやつ」
「……そうだな」
俺たちは、映画館の前を通り過ぎ、雑貨屋をのぞき、本屋ではそれぞれの趣味本をチェックした。
「お兄ちゃん、これ好きそう」
彼女が差し出したのは、まさかの“美少女キャラ特集号”。
「いや、それをここで渡してくるのか……」
「いいんだよ。好きなものは、否定しない。……でも、私のこともちゃんと見てよね」
その台詞にドキリとする。
彼女の笑顔は冗談めいていたけれど、その目は本気だった。
フードコートで軽食を済ませたあと。
帰り道、駅に向かって歩く途中、碧純が唐突に言った。
「ねえ、真壁くん。……あのね、言いたいことがあるの」
「ん?」
「……私、怖かったんだ。あなたが“誰かを選んだ”あとでも、まだ他の子が近づいてくるんじゃないかって」
「……それは」
「だから、今日みたいにちゃんとふたりだけの時間があると、安心する。
私だけを見てくれてるって、わかるから」
彼女は少しうつむいて、スカートの裾を指でつまんだ。
「独占欲、強いのかもしれない。でも……私、そういう自分、嫌いじゃない」
彼女の本音に、俺は静かに頷いた。
「俺も、今日みたいな時間、好きだよ」
「……ほんと?」
「嘘じゃない。誰にも邪魔されない、俺たちだけの時間って、特別だなって」
その言葉に、碧純はほんの少し泣きそうな顔で微笑んだ。
「じゃあ……また、行こうね。秘密のデート」
「……うん」
電車の中、ふたりで並んで座る。
揺れる車内。
手をつないで、黙って景色を眺める。
肩が触れて、息が混ざって、ぬくもりが伝わって。
それだけで、世界が静かになる。
今日の記憶が、物語の一ページになるような気がした。
(つづく)
放課後のチャイムが鳴り、教室が一気にざわつく。
友人たちは部活へ、あるいは駅へと足早に向かっていくなか、俺はゆっくりと立ち上がった。
教室の隅で待っていたのは、碧純だった。
制服の上にカーディガンを羽織り、手にはトートバッグ。
その表情は、どこか期待と緊張が入り混じっていた。
「……今日は、ちょっと寄り道、しない?」
「どこに?」
「……秘密」
そう言って微笑む彼女の顔に、抗えるわけがなかった。
向かった先は、駅から三つ先のショッピングモールだった。
平日の夕方、人はまばら。
だけど、イルミネーションの飾り付けが始まっていて、空気には微かに冬の匂いが混じっていた。
「ここ、好きなんだ。人が少なくて、静かで……それに」
碧純は、少し照れながら俺の腕をそっと掴んだ。
「……ふたりで歩くの、初めてでしょ?“デート”って呼べるやつ」
「……そうだな」
俺たちは、映画館の前を通り過ぎ、雑貨屋をのぞき、本屋ではそれぞれの趣味本をチェックした。
「お兄ちゃん、これ好きそう」
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「いや、それをここで渡してくるのか……」
「いいんだよ。好きなものは、否定しない。……でも、私のこともちゃんと見てよね」
その台詞にドキリとする。
彼女の笑顔は冗談めいていたけれど、その目は本気だった。
フードコートで軽食を済ませたあと。
帰り道、駅に向かって歩く途中、碧純が唐突に言った。
「ねえ、真壁くん。……あのね、言いたいことがあるの」
「ん?」
「……私、怖かったんだ。あなたが“誰かを選んだ”あとでも、まだ他の子が近づいてくるんじゃないかって」
「……それは」
「だから、今日みたいにちゃんとふたりだけの時間があると、安心する。
私だけを見てくれてるって、わかるから」
彼女は少しうつむいて、スカートの裾を指でつまんだ。
「独占欲、強いのかもしれない。でも……私、そういう自分、嫌いじゃない」
彼女の本音に、俺は静かに頷いた。
「俺も、今日みたいな時間、好きだよ」
「……ほんと?」
「嘘じゃない。誰にも邪魔されない、俺たちだけの時間って、特別だなって」
その言葉に、碧純はほんの少し泣きそうな顔で微笑んだ。
「じゃあ……また、行こうね。秘密のデート」
「……うん」
電車の中、ふたりで並んで座る。
揺れる車内。
手をつないで、黙って景色を眺める。
肩が触れて、息が混ざって、ぬくもりが伝わって。
それだけで、世界が静かになる。
今日の記憶が、物語の一ページになるような気がした。
(つづく)
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