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第七十話 転校生の席、冬の予感
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翌週、月曜日の朝。
冷たい風が吹き抜ける通学路。
息を吐けば白く、制服の上に羽織ったコートの中に指をすぼめる季節になった。
俺と碧純は、いつものように並んで登校していた。
だけど今日の彼女は、どこかそわそわしていた。
「……なあ、どうしたんだ?」
「え? ううん、なんでもないよ」
「いや、そういう時は“なんでもある”やつだろ」
「う……やっぱ、バレるか」
碧純は少し苦笑して、カバンの取っ手を握り直した。
「今日、転校生が来るらしいよ。二年B組に」
「……へえ」
その情報自体にはさほど驚きはなかった。
ただ、なぜそれが彼女のテンションを揺らしているのか。
「しかもね、その子……“王族の令嬢”らしい」
「……は?」
思わず足を止めた。
「王族って……海外の?」
「うん。アーデン王国っていうヨーロッパの小国の第一王女、イザベラ・アーデンさんだって」
「アーデン王国って……昔ニュースで見たやつか?」
「たぶん。それで、なんか日本の教育機関と提携したとかで、この学校に“視察名目で通う”んだって」
「……また、ややこしいのが来たな」
俺の脳裏に嫌な予感が走る。
朝のホームルーム。
教室の空気は、明らかに違っていた。
ざわざわと浮ついた視線、隠せない好奇心。
そして担任が教室に入ってくると、声を張って告げた。
「今日は転校生を紹介する。世界でも有数の名家のお嬢様だ。……くれぐれも失礼のないようにな」
その言葉のあと、ドアが開く。
現れたのは、長い金髪を三つ編みにまとめ、凛とした立ち姿の少女。
深紅の瞳、透き通るような白い肌。
まるで物語の中から抜け出してきたような、美しさだった。
「皆さま、初めまして。アーデン王国の第一王女、イザベラ・アーデンと申します。
本日より、こちらの学び舎にて共に学ばせていただくこととなりました。よろしくお願いいたします」
発音は完璧な日本語。
それでいて、声の抑揚にはどこか外国の気品があった。
(……いや、なんで日本語こんなうまいんだよ)
周囲の空気が呑まれる。
だが俺は、その瞬間、イザベラの目線が“俺だけ”を捉えたことに気づいた。
(……あれ?)
彼女の瞳が、わずかに揺れた気がした。
(まさか、会ったこと……? いや、そんなわけ……)
「席は、真壁の隣だ」
担任のその一言が、教室の空気を一変させた。
「お、おい……先生?」
「いろいろと手続き関係があるから、英語ができる真壁がフォローしてやれ」
「俺、TOEIC400だぞ……」
碧純の席から、微妙にこわばった視線が突き刺さる。
俺の静かな高校生活は、またひとつ“波乱の幕開け”を迎えていた。
(つづく)
冷たい風が吹き抜ける通学路。
息を吐けば白く、制服の上に羽織ったコートの中に指をすぼめる季節になった。
俺と碧純は、いつものように並んで登校していた。
だけど今日の彼女は、どこかそわそわしていた。
「……なあ、どうしたんだ?」
「え? ううん、なんでもないよ」
「いや、そういう時は“なんでもある”やつだろ」
「う……やっぱ、バレるか」
碧純は少し苦笑して、カバンの取っ手を握り直した。
「今日、転校生が来るらしいよ。二年B組に」
「……へえ」
その情報自体にはさほど驚きはなかった。
ただ、なぜそれが彼女のテンションを揺らしているのか。
「しかもね、その子……“王族の令嬢”らしい」
「……は?」
思わず足を止めた。
「王族って……海外の?」
「うん。アーデン王国っていうヨーロッパの小国の第一王女、イザベラ・アーデンさんだって」
「アーデン王国って……昔ニュースで見たやつか?」
「たぶん。それで、なんか日本の教育機関と提携したとかで、この学校に“視察名目で通う”んだって」
「……また、ややこしいのが来たな」
俺の脳裏に嫌な予感が走る。
朝のホームルーム。
教室の空気は、明らかに違っていた。
ざわざわと浮ついた視線、隠せない好奇心。
そして担任が教室に入ってくると、声を張って告げた。
「今日は転校生を紹介する。世界でも有数の名家のお嬢様だ。……くれぐれも失礼のないようにな」
その言葉のあと、ドアが開く。
現れたのは、長い金髪を三つ編みにまとめ、凛とした立ち姿の少女。
深紅の瞳、透き通るような白い肌。
まるで物語の中から抜け出してきたような、美しさだった。
「皆さま、初めまして。アーデン王国の第一王女、イザベラ・アーデンと申します。
本日より、こちらの学び舎にて共に学ばせていただくこととなりました。よろしくお願いいたします」
発音は完璧な日本語。
それでいて、声の抑揚にはどこか外国の気品があった。
(……いや、なんで日本語こんなうまいんだよ)
周囲の空気が呑まれる。
だが俺は、その瞬間、イザベラの目線が“俺だけ”を捉えたことに気づいた。
(……あれ?)
彼女の瞳が、わずかに揺れた気がした。
(まさか、会ったこと……? いや、そんなわけ……)
「席は、真壁の隣だ」
担任のその一言が、教室の空気を一変させた。
「お、おい……先生?」
「いろいろと手続き関係があるから、英語ができる真壁がフォローしてやれ」
「俺、TOEIC400だぞ……」
碧純の席から、微妙にこわばった視線が突き刺さる。
俺の静かな高校生活は、またひとつ“波乱の幕開け”を迎えていた。
(つづく)
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