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第七十一話 王女と親王、交差する運命の影
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昼休み。
教室の一角で、イザベラ・アーデンは静かに弁当箱を広げていた。
真っ白なレースのハンカチを敷き、金縁の箸箱から出されたカトラリーは、明らかに日本製ではなかった。
だけど、その所作は驚くほど丁寧で……そして、完璧だった。
背筋は伸び、姿勢は微動だにせず、まるで貴族の晩餐のような気品が漂っていた。
そんな彼女を、クラスの誰もが遠巻きに見つめていた。
もちろん俺も、例外ではなかった。
(まるで、舞台の上の人間みたいだな……)
そんな時だった。
「真壁さま。ご一緒しても、よろしいですか?」
その声は、まっすぐ俺に向けられていた。
「……え?」
視線が一斉に集まる。
“さま”ってなんだ、“さま”って。
「イザベラさん……俺の名前、なんで」
彼女は首を傾げ、微笑んだ。
「本国で、あなたのことはよく耳にしておりました。……“日出ずる国の、若き皇子”として」
教室の空気が、完全に止まった。
俺の背筋にも、冷たい汗が伝う。
(やばい。こいつ、俺の正体を知ってる……)
「な、なんのことだ? 俺はただの一般高校生だぞ?」
「もちろん。それは理解しております」
イザベラはにっこりと笑う。
その笑みは、外交官のように完璧な表情で。
「ですから、一般高校生としての“あなた”と、お話がしたいのです」
“だから、秘密は守る”という意図を含んでいることが、わかった。
俺は頷いて、彼女の正面に座る。
すると――視線を感じる。
向かいの窓際席。
碧純。
表情は崩していないが、明らかにその目が鋭い。
(あー……これは絶対あとで問い詰められるやつ)
食後。
イザベラは紅茶のティーバッグを丁寧に引き上げながら、静かに語りだした。
「……私は、国の未来を託される立場にあります。
だからこそ、自分の意思で物事を見極めたくて、この国に来ました」
「それで、なぜこの学校を?」
「“あなた”がいるからです」
即答。
「本国では、あなたの名前は多くの場で語られています。
それは伝説でも神話でもなく、“現代の物語”として」
イザベラの目がまっすぐ俺を見る。
その瞳には、作られた興味ではなく、本物の“関心”があった。
「私は、あなたを知りたい。
“弘弥殿下”ではなく、“真壁弘弥”としてのあなたを」
静寂。
まるで校舎全体が息を飲んだかのような時間の中で、俺はただ、彼女を見つめ返すことしかできなかった。
放課後。
校門前で碧純が待っていた。
彼女は笑顔だった。
でもその笑顔の奥に、確かに小さな棘があった。
「弘弥くん、今日……お昼、楽しそうだったね」
「お、おい、ちょっと待て。あれは向こうから話しかけてきたんで……」
「うん。わかってる。……でも」
碧純は、俺の胸に手を添えた。
その目は、逃がさないと告げていた。
「忘れないでね。
“最初に選ばれた”のは、私だってこと」
その言葉が、心の奥を静かに突いた。
波乱の気配。
イザベラの登場は、俺たちの関係に確実に風を起こしていた。
(つづく)
教室の一角で、イザベラ・アーデンは静かに弁当箱を広げていた。
真っ白なレースのハンカチを敷き、金縁の箸箱から出されたカトラリーは、明らかに日本製ではなかった。
だけど、その所作は驚くほど丁寧で……そして、完璧だった。
背筋は伸び、姿勢は微動だにせず、まるで貴族の晩餐のような気品が漂っていた。
そんな彼女を、クラスの誰もが遠巻きに見つめていた。
もちろん俺も、例外ではなかった。
(まるで、舞台の上の人間みたいだな……)
そんな時だった。
「真壁さま。ご一緒しても、よろしいですか?」
その声は、まっすぐ俺に向けられていた。
「……え?」
視線が一斉に集まる。
“さま”ってなんだ、“さま”って。
「イザベラさん……俺の名前、なんで」
彼女は首を傾げ、微笑んだ。
「本国で、あなたのことはよく耳にしておりました。……“日出ずる国の、若き皇子”として」
教室の空気が、完全に止まった。
俺の背筋にも、冷たい汗が伝う。
(やばい。こいつ、俺の正体を知ってる……)
「な、なんのことだ? 俺はただの一般高校生だぞ?」
「もちろん。それは理解しております」
イザベラはにっこりと笑う。
その笑みは、外交官のように完璧な表情で。
「ですから、一般高校生としての“あなた”と、お話がしたいのです」
“だから、秘密は守る”という意図を含んでいることが、わかった。
俺は頷いて、彼女の正面に座る。
すると――視線を感じる。
向かいの窓際席。
碧純。
表情は崩していないが、明らかにその目が鋭い。
(あー……これは絶対あとで問い詰められるやつ)
食後。
イザベラは紅茶のティーバッグを丁寧に引き上げながら、静かに語りだした。
「……私は、国の未来を託される立場にあります。
だからこそ、自分の意思で物事を見極めたくて、この国に来ました」
「それで、なぜこの学校を?」
「“あなた”がいるからです」
即答。
「本国では、あなたの名前は多くの場で語られています。
それは伝説でも神話でもなく、“現代の物語”として」
イザベラの目がまっすぐ俺を見る。
その瞳には、作られた興味ではなく、本物の“関心”があった。
「私は、あなたを知りたい。
“弘弥殿下”ではなく、“真壁弘弥”としてのあなたを」
静寂。
まるで校舎全体が息を飲んだかのような時間の中で、俺はただ、彼女を見つめ返すことしかできなかった。
放課後。
校門前で碧純が待っていた。
彼女は笑顔だった。
でもその笑顔の奥に、確かに小さな棘があった。
「弘弥くん、今日……お昼、楽しそうだったね」
「お、おい、ちょっと待て。あれは向こうから話しかけてきたんで……」
「うん。わかってる。……でも」
碧純は、俺の胸に手を添えた。
その目は、逃がさないと告げていた。
「忘れないでね。
“最初に選ばれた”のは、私だってこと」
その言葉が、心の奥を静かに突いた。
波乱の気配。
イザベラの登場は、俺たちの関係に確実に風を起こしていた。
(つづく)
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