同居のヒロイン達に夢精がバレる俺は、正妻戦争の中心にいるらしい件

本能寺から始める常陸之介寛浩

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第七十九話 凍てつく午後、王女の孤独と微笑み

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十二月の終わり。
 冬休みを目前に控えた平日、校舎はどこか浮き足立った雰囲気に包まれていた。

 進路、成績、年末イベント、クリスマス——高校生の頭の中は、現実と願い事と少しの欲望で満ちていた。

 そんな中、俺は放課後、珍しく生徒会室へ向かっていた。

 用事があったわけじゃない。
 ただ、そこに彼女がいると聞いたから。

 イザベラ・アーデン。
 王女。
 俺の秘密を知る者。
 そして、いまこの学校で、たったひとり“孤独を隠して笑っている”少女。

 生徒会室の扉をノックすると、静かに「どうぞ」という声が返ってきた。

 中には、誰もいなかった。
 ただ机の端に腰を掛け、本を読んでいたイザベラがひとり。

「真壁さま、また“偶然”ですか?」

「偶然ってことにしとこうか」

 俺が苦笑いしながら近づくと、彼女は本を閉じて顔を上げた。

 その目に、微かな疲れがにじんでいた。

「……無理して笑ってない?」

「いいえ。これが“外交”ですもの」

 さらりと返したその言葉に、少しだけ胸が痛んだ。

「本国から、連絡があったんだろ?」

「はい。“帰国準備を進めるように”と」

 イザベラはカップに残った紅茶を口に含んでから、小さく息をついた。

「私がこの国に来た理由は、“個人としての意思”と同時に、“王女としての義務”でもありました。
 でも……この数ヶ月、私は“ただの一人の少女”として生きたかった」

「それは、できたと思うよ。少なくとも、俺にとっては」

 その言葉に、イザベラの目が揺れた。

「……本当ですか?」

「ああ。たった五分でも、ずっと前から知ってる気がした。六年前のあの日も、今も」

 沈黙が降りる。
 そして、彼女はゆっくりと立ち上がった。

「なら、もう一度聞いてもいいですか?」

「何を?」

「私がもし、このまま帰らず、ずっとこの学園にいたいと言ったら……あなたは止めますか?」

 その問いに、俺はすぐには答えられなかった。

 でも彼女の目は、それを分かっていて、それでも投げかけていた。

 その日の帰り道。

 白く凍った歩道を歩きながら、俺は思っていた。

 誰かを選ぶということは、
 誰かの孤独を見過ごすことかもしれない。

 でも、その孤独を、たとえ恋ではなくても、
 “ひとりにしない”ことはできる。

 俺は、イザベラの問いに、まだ答えを出せていない。
 けれど——彼女の願いだけは、きっと、嘘じゃない。

(つづく)

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