同居のヒロイン達に夢精がバレる俺は、正妻戦争の中心にいるらしい件

本能寺から始める常陸之介寛浩

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第一一〇話 修羅場の予感──三人目の布団の中

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 翌朝。

 窓の隙間から漏れ込む柔らかな陽光が、俺の頬を照らしていた。
 気持ちよさそうなまどろみの中で、ぼんやりと目を開ける。

 そして——気づいた。

 あたたかい。
 というか、あたたかすぎる。

 腕に柔らかい感触。
 指先には、確かな体温。
 そして鼻先には、どこかで嗅いだことのある落ち着いたラベンダーの香り。

(ん……?)

 視線を落とす。

 まず一人目——碧純。
 昨夜隣に寝た妹は、当然そこにいた。
 寝息を立てながら、俺の肩に額を預けている。

 問題は——もう一人。

 俺の反対側。
 碧純の反対の布団の端に、もう一人の人影がある。

 長い黒髪。
 きっちりと整えられた前髪。
 そして、スヤスヤと寝息を立てて、俺の腕にくっついている——

「ひより……!?」

 そう、そこにいたのは一ノ瀬ひよりだった。

 しかも彼女は、明らかに“忍び込んだ”格好をしていた。
 制服ではないが、黒のワンピースに身を包み、髪をリボンで結んでいる。

 布団に入っていること自体は不可解だが、その寝姿はあまりに自然で、まるでずっとそこにいたかのようだった。

(ま、まさか……夜の間に!?)

 思い返しても、昨日の夜は碧純と二人きりだったはずだ。
 じゃあ、ひよりはいつ部屋に? どうやって?

 頭が追いつかない。
 けれど、ひよりはぴったりと俺の腕にしがみついたまま、無言で眠っている。

「……ぅ、ん……」

 そして、その声で碧純が目を覚ます。

「お兄ちゃん……おはよ……」

 目をこすりながら、微笑みかけてきたその瞬間。

 彼女の目が、俺の反対側——ひよりに向いた。

 時間が、止まった。

 ぱちん。

 まぶたを開いたひよりと、碧純の目が、交差する。

「……なんで、ひよりちゃんがここにいるの?」

 碧純の声は低く静かだった。

 ひよりは、まるで何事もないかのように微笑んだ。

「観察対象の“睡眠環境”を調べるためです」

「どの口が言ってんのよ!!」

 バッと布団をめくり、碧純が身を起こした。

「お兄ちゃんと、同じ布団で寝てるの、私だけだと思ってたのに……!
 勝手に入り込んで、なに考えてんの!?」

 ひよりはまったく動じず、むしろ穏やかな口調で応じた。

「“恋愛戦”ですから、早起きも潜入も戦術のひとつです」

 その瞬間、碧純の眉がぴくりと跳ねた。

「なるほど、戦術ね……いいわ、なら次は“奇襲”で返す番ね」

 バチバチと火花を散らす視線。
 その中心で俺は、汗をだらだら流しながら呻いた。

(なんで俺の布団が三人用になってるんだ……!?)

 朝から始まる修羅場モード。
 俺の平穏な日常は、もはやどこにもなかった。

(つづく)

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