同居のヒロイン達に夢精がバレる俺は、正妻戦争の中心にいるらしい件

本能寺から始める常陸之介寛浩

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第一一一話 穢された朝──止まらぬ本能

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 布団の中。
 静かな寝息が、左右から規則正しく聞こえていた。
 碧純が左肩に、ひよりが右腕に。
 俺の両腕は、まるで人質のように挟まれたままだった。

 それなのに——

 目覚めた瞬間、まず最初に感じたのは、下腹部に溜まる異常な熱だった。

(ま、まずい……っ)

 目を開けると、天井の木目模様が揺れて見える。
 脈打つ身体。
 浮かぶ記憶の断片。

 ——夢を見ていた。

 あまりに生々しく、あまりに鮮烈で。

 夢の中で、碧純が制服姿のまま俺に覆いかぶさってきて、
 「兄妹なんか関係ないよ」って、ささやいてきた。

 ひよりも現れて、冷静に観察するように俺のシャツのボタンを外し、
 「観察者として、直接触れて確かめる必要があります」なんて言ってきた。

 現実と地続きのような夢だった。
 声も、息遣いも、手のぬくもりも——全部がリアルだった。

 そして——

 気づけば。

 パンツの内側に、ぬるい粘つきが広がっていた。

(……やった、また……っ!?)

 この状況で夢精!?
 いや、冷静に考えれば当然だ。
 両脇に可愛い女の子が二人、密着して眠ってるんだから。
 しかもどっちも俺のことを好きで、アプローチしてきていて……

「最悪だぁああああ!!」

 思わず頭を抱えた。
 声が思った以上に大きく出てしまい、空気が震えた。

 その瞬間、ふたりの寝息が微かに乱れる。

 まず、ひよりが目を開けた。
 ぼんやりとした目をこちらに向けて、軽くまばたきする。

「……弘弥くん?」

「な、なんでもない!! 寝ぼけて叫んだだけ!!」

 次いで、碧純もむくりと起き上がる。

「お兄ちゃん? 大丈夫? 熱あるの……?」

 慌てて布団を持ち上げようとする碧純の手を、俺は本気で止めた。

「待て! ダメ! ほんとに! 今は無理!!」

「え? なに、なにか隠してるの?」

 ぐいっと布団の端を引っ張ろうとする碧純。

 だが、ここで引かれてはマジで終わる!!

 夢精現場を実妹に見られるとか、どんなトラウマエピソードだよ!?

「ごめん、トイレ行ってくる!!」

 叫ぶように布団から飛び出し、俺は猛ダッシュで部屋を飛び出した。
 扉がバタンと閉まる音が、いつになく重く響いた。

 脱兎のごとく逃げ出した俺の背中を、碧純とひよりが同時に見送っていた。

「……? なにか……変じゃなかった?」

 ぽかんとした碧純の隣で、ひよりがじっと俺の布団の皺を見つめる。
 そして、ゆっくりと立ち上がり、枕元に膝をついた。

 その目が、静かに細められた。

「……観察結果。体液排出の兆候、確認。
 被験者、今朝も本能に忠実」

「!? ひよりちゃん、なに言ってるの!?」

 碧純は驚愕のあまり布団を引きはがし、敷布を凝視した。

 沈黙。

 ほんのわずかに、敷布の一部が濡れているようにも見える。
 気のせいかもしれない。
 でも、ひよりの目はそれを“事実”として受け取っていた。

「寝起きの生理反応として、頻度が高い傾向。
 昨日の精神的刺激量と照らし合わせると、妥当な現象」

「……分析してる場合じゃないよね!?
 てか、なんでひよりちゃん、そんな冷静なの!?
 お兄ちゃん……その、こっそり、やっちゃったんでしょ……?」

 碧純の顔が見る見る赤くなる。
 怒りというより、羞恥の色に染まっていく。

 その時。
 ふと、ひよりが鼻を近づけるように布団に顔を寄せて、表情をわずかに歪めた。

「……少し、生臭いですね。成分としてはタンパク質系。精液特有の香りが混じってます」

「ひ、ひよりちゃん!?!?」

 碧純も思わず鼻を近づけ——

「………………うっわ、お兄ちゃん、ほんとに……っ!」

 恥ずかしさと怒りと困惑が混ざった顔で、思わず枕を掴んで顔を覆う碧純。

「朝っぱらから何してるの!? ていうか、臭い! しかも夢ってなに!?!」

「ひよりちゃん、そんなに真顔で臭い分析しないでー!!」

 部屋の空気が、全員の羞恥で異様に熱を帯びていく中——
 俺はトイレの中で、さらに深く壁に額を押しつけていた。

(もうダメかもしれん……人として……)

 その朝、心の穢れとともに、空気まで洗い流したくなるような修羅場が始まっていた。

(つづく)

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