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第一四一話 別れの時──王女、そして禁じられた電話
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春休みの終盤、桜が舞う午後。
イザベラ・アーデンは、静かに佇んでいた。
その手には、一通の封筒。
王国の紋章が刻まれたそれには——“強制帰国命令”の文字が刻まれていた。
「……やはり、避けられぬ運命でした」
彼女の言葉は静かだったが、その目は確かに揺れていた。
「イザベラ、帰るって……そんなの……」
俺の声は、思っていた以上に掠れていた。
「ごめんなさい。わたくしにも、逆らえない“命”があるのです。外交上の問題、王室の都合……そして」
「……そして?」
「わたくしが、“あなた”とこれ以上、深く関わることへの懸念」
ヒロインたちは、固唾を呑んでその場に立ち尽くしていた。
俺は、黙って携帯を取り出した。
心臓が、ドクンドクンとうるさい。
(あの番号を使うのは、本当に最後の手段……でも)
覚悟を決め、通話ボタンを押す。
数秒の呼び出し音の後——
『……真壁弘弥先生、ですか?』
穏やかで、けれど格式を帯びた声音。
『まさか、先生から直接お電話いただけるとは。最新刊、拝読いたしました』
「……ありがとうございます。実は、ひとつだけ、お願いがあって」
俺は深く息を吸い、状況を簡潔に説明した。
イザベラ・アーデン王女の、日本滞在延長のための“特例措置”を。
相手はしばし沈黙し、そして言った。
『彼女の滞在に、文化交流的意義があるならば——調整可能かもしれません』
「……内親王殿下。お願いです。彼女を、このまま帰さないでほしい」
心からの言葉だった。
『……弘弥先生。ご存知ですか? わたくしが、あなたの“第二作”を読んで泣いたことを』
「え……」
『わたくしにできる限りの力を尽くしましょう。王女殿下には“滞在継続の名目”を添えて、正式な書簡を』
通話が終わった瞬間、俺は深く頭を下げた。
「……ありがとう」
電話越しの“読者”に向かって、心から。
そして数日後——
イザベラは、正式に“日本文化・言語交流親善大使”としての滞在延長を許可される。
彼女は、再び俺の目の前で微笑んだ。
「弘弥様……助けてくださって、本当に……ありがとう」
その笑顔は、春の花よりも美しかった。
(つづく)
イザベラ・アーデンは、静かに佇んでいた。
その手には、一通の封筒。
王国の紋章が刻まれたそれには——“強制帰国命令”の文字が刻まれていた。
「……やはり、避けられぬ運命でした」
彼女の言葉は静かだったが、その目は確かに揺れていた。
「イザベラ、帰るって……そんなの……」
俺の声は、思っていた以上に掠れていた。
「ごめんなさい。わたくしにも、逆らえない“命”があるのです。外交上の問題、王室の都合……そして」
「……そして?」
「わたくしが、“あなた”とこれ以上、深く関わることへの懸念」
ヒロインたちは、固唾を呑んでその場に立ち尽くしていた。
俺は、黙って携帯を取り出した。
心臓が、ドクンドクンとうるさい。
(あの番号を使うのは、本当に最後の手段……でも)
覚悟を決め、通話ボタンを押す。
数秒の呼び出し音の後——
『……真壁弘弥先生、ですか?』
穏やかで、けれど格式を帯びた声音。
『まさか、先生から直接お電話いただけるとは。最新刊、拝読いたしました』
「……ありがとうございます。実は、ひとつだけ、お願いがあって」
俺は深く息を吸い、状況を簡潔に説明した。
イザベラ・アーデン王女の、日本滞在延長のための“特例措置”を。
相手はしばし沈黙し、そして言った。
『彼女の滞在に、文化交流的意義があるならば——調整可能かもしれません』
「……内親王殿下。お願いです。彼女を、このまま帰さないでほしい」
心からの言葉だった。
『……弘弥先生。ご存知ですか? わたくしが、あなたの“第二作”を読んで泣いたことを』
「え……」
『わたくしにできる限りの力を尽くしましょう。王女殿下には“滞在継続の名目”を添えて、正式な書簡を』
通話が終わった瞬間、俺は深く頭を下げた。
「……ありがとう」
電話越しの“読者”に向かって、心から。
そして数日後——
イザベラは、正式に“日本文化・言語交流親善大使”としての滞在延長を許可される。
彼女は、再び俺の目の前で微笑んだ。
「弘弥様……助けてくださって、本当に……ありがとう」
その笑顔は、春の花よりも美しかった。
(つづく)
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