同居のヒロイン達に夢精がバレる俺は、正妻戦争の中心にいるらしい件

本能寺から始める常陸之介寛浩

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第一六八話 兄、覚醒す──年上女教師モノに走る夜(前編)

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夕方、放課後。
 真壁家のリビングは、まだ夕焼け色に染まり始めたばかりだった。

 碧純は静かに階段を上がり、兄の部屋の前へと近づいていた。

 “創作に集中してる時は邪魔しないでね”

 弘弥はいつもそう言っていた。

 けれど。

(最近、お兄ちゃん……ちょっと変わった)

 碧純は、不安と疑念とほんの少しの嫉妬を抱えながら、扉の隙間に耳を寄せた。

 中からは、カタカタ……とキーボードを打つ音。

 そして——

「……くっ、駄目だ……彼女のスーツの隙間が、頭から離れない……っ!」

 という、あまりにテンション高めな独り言。

(え?)

 碧純は、ゆっくりと、そっと扉を開けた。

 弘弥の背中が見える。
 そのモニターには、ずらりと並ぶ原稿ファイル。

 タイトルウィンドウには、はっきりと表示されていた。

 『Fカップ女教師は、俺の煩悩を浄化できない』

 碧純の顔が、カチンと音を立てて固まった。

「うぉおおお……“生徒と教師の倫理的葛藤”……これは尊い……!! いや、“濡れたスーツ越しに見えるライン”で心が揺れる展開……っ! これはもう売れるぞ、絶対……っ!」

 兄は完全に“年上女教師モード”に入っていた。
 もう妹モノどころではなかった。

 机には資料として、何冊もの“教師系ラブコメ”作品。
 そして手書きのメモには——

 『先生のブラウスは、濡れると透ける』『女教師の憂い、最高』

(……これは……一度、全部ぶち壊さないとダメだ)

 碧純の中で、何かが壊れた。

 彼女は、そっと扉を閉めた。

 深呼吸。

 そして、スマホを取り出し、闇部活メンバーにグループ通話を繋いだ。

「……今すぐ作戦変更。新作のインスピレーション源を、根こそぎ破壊する」

 妹の怒りが、再び部活に火を灯す。
 恋と煩悩と創作をめぐる、さらなる嵐が近づいていた。

(つづく)

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