同居のヒロイン達に夢精がバレる俺は、正妻戦争の中心にいるらしい件

本能寺から始める常陸之介寛浩

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第一七一話 夕餉と煩悩──スケスケの食卓と倒れる主君(前編)

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 夜八時。
 真壁家のダイニング。

 いつもなら、ほっと一息つける夕食の時間。
 けれど今夜は、その空気がどこか異様に感じられた。

 原因は——

 ヒロイン全員が、ネグリジェ姿のまま着席していること。

 春の夜気はまだ少し肌寒いのに、彼女たちはまるでそれを感じさせないほど自然に、その姿で食卓に揃っていた。

「じゃあ、いただきます♡」

 碧純が柔らかな笑みを浮かべて手を合わせた。
 ほんのりピンクのネグリジェは彼女の肌の白さを際立たせ、胸元のレース越しにうっすらと肌が透けて見える。
 髪を結わえずに下ろしたままの姿は、いつもの妹というより“年頃の女性”だった。

 すみれは淡いベージュのシフォン生地のネグリジェに身を包み、湯気の立つ煮物を静かに小鉢へと分ける。
 胸元のボタンが一つ外れていて、その隙間から覗く鎖骨が妙に艶っぽい。

 瑠衣はというと、まるで部屋着の延長線のようなフリルつきの薄手ネグリジェで、胸元を大胆に開けたまま唐揚げをつまみ食いしていた。
 笑顔は無邪気なのに、胸元は無防備すぎて逆に危険だった。

 ひよりは無地のネイビー、やや丈短めのストレートシルエット。
 メモを取りながら黙々とご飯を食べているが、脚が組まれており、その生足がスカートの裾から覗いている。

 イザベラに至っては、絹のように滑らかな白のネグリジェに、まるで下着のように繊細な刺繍のショールを羽織っていた。
 その姿はまるで夜会に現れた姫君のようで、ダイニングという現実がどこか霞んで見えた。

 そんな彼女たちが、なにごともないように食事をしている——その異様さ。

 そして俺は、その食卓の中心にいた。

(っ……だめだ、落ち着け俺……! これは、ただの布だ、ただの布……っ)

 心の中で何度も念じた。
 だが理性という名のブレーキは、今のこの状況にはまるで効果を発揮してくれなかった。

「弘弥お兄ちゃん、どうしたの? ごはん、冷めちゃうよ?」

 碧純が、箸を止めてこちらを覗き込む。
 その目は、妹としての優しさと、女性としての色気がないまぜになっていた。

 視線を落とすと、白いネグリジェ越しに彼女の胸のふくらみが揺れた気がして、俺は思わず目をそらす。

「い、いや……ちょっとその、色々、刺激が多くて……」

 情けない声が喉から漏れる。

「……また熱、出してる?」

 隣に座るすみれが、そっと手を伸ばしてきた。
 彼女の冷たい指先が、俺の額に触れる。

 それは柔らかく、ひんやりとして、心地よかった。
 けれど同時に——危険でもあった。

 近すぎる。
 距離が。

 すみれの髪から香るシャンプーの香りが、ふと鼻腔をくすぐった。
 頬を寄せられるように触れられたその一瞬。

 (……あ……これは……やばい)

 胸がドクンと跳ねた。
 心拍数、上昇。
 顔面温度、上昇。
 呼吸、浅く。
 耳鳴り、発生。

「……あれ、ちょっと……視界が……ゆら……」

 世界が傾いで見えたのは、その直後だった。
 俺の身体が重力に逆らえず、椅子から崩れ落ちていく感覚。

「弘弥くん!?」「お兄ちゃん!?」「えっ、倒れた!?」「煩悩過多による熱暴走!?」「よ、予測済み……!」

 ヒロインたちの声が、わんわんと響く。
 遠ざかる意識の中、最後に見えたのは、ネグリジェ姿の碧純が慌てて駆け寄ってくる姿だった。

 ——これは、煩悩のせいなのか。
 ——それとも、恋というやつの熱なのか。

 答えは、次の目覚めに持ち越しだ。

(つづく)
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