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第一七五話 テレビからの招待──全国デビューと波乱の予感
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日曜の夕方。
スマホに届いた1通のメールが、俺の運命を大きく変えることになる。
件名:【出演依頼】人気官能小説家・真壁弘弥様へ
内容はこうだった。
《現在、話題沸騰中の電子官能小説『彼女たちは透けて誘惑する』の著者・真壁弘弥様に、
地上波情報番組「日曜の読書室」よりインタビュー出演のご依頼です》
《テーマは『文学としての官能』。全国ネット放送、視聴者は全年齢層です》
《なお、出演の際はペンネーム・顔出し含めたご相談に応じます》
……どうしてこうなった。
俺はスマホを手にしたまま、固まっていた。脳内では編集からの連絡、サイトのランキング、感想欄のコメントが高速で再生されている。心の中で悲鳴をあげていた。
「お兄ちゃん、また変な顔してスマホ見てる……」
リビングに入ってきた碧純が、じっと俺の顔を覗き込んだ。
俺は慌ててスマホを裏返したが、その挙動がむしろ怪しすぎた。
「え? なに? テレビ出演? 官能作家として!? は!?」
「しーっ! しーっ! 声デカい!」
慌てて口を押さえる。しかし、時すでに遅し。
隣の部屋の扉がパタンと開いた。
「官能って……あの!?」「テレビ!? 弘弥くん出るの!?」「番組って、アレよね、ゴールデン帯の……」
ヒロインたちが一人、また一人と顔を出す。
すぐさまリビングの空気は緊張と混乱で満たされた。全員が一斉に喋り出し、俺の声はもはやかき消された。
「ちょっと待って。出演って、内容は!? どこまで話すの!?」(すみれ)
「まさか……モデルが私たちだって……言わないよね?」(イザベラ)
「お兄ちゃん、やばいよ! おばあちゃんが見たらどうするの!?」(碧純)
「バズってるなら、ネグリジェの詳細も語られる可能性……記録要項を提出しておくべき?」(ひより)
「いやいや、まだ断ってないってば!!」
必死に弁明しても、彼女たちの視線は一層鋭くなっていく。まるで“犯人”を追及する刑事たちに囲まれたかのような心境だった。
「弘弥様。あれだけ“文学としての官能”と称しておいて、実は視覚に釣られていただけなら……失望しますわ」(イザベラ)
「それで……番組では、“どのシーンが一番反響あったか”って聞かれたら、どう答えるつもり?」(すみれ)
「まさか……“妹キャラの入浴シーン”とか言うんじゃないでしょうね?」(碧純)
「ぐぅ……」
顔から火が出そうだった。俺は顔を伏せたまま、深くため息を吐いた。
——たしかに。
今や、俺の“煩悩”は作品として世に出て、評価され、拡散されている。
ライトノベルという枠を超え、官能というジャンルで、読者たちの心と体を動かしてしまった。
それはきっと、彼女たちの存在があったから。
碧純の笑顔。
すみれの微笑。
瑠衣の無邪気さ。
ひよりの観察眼。
ユナの不可思議な理論。
イザベラの誇り高き優しさ。
あのネグリジェの夜。
あの沈黙と視線。
すべてが、俺の“創作”を作った。
そしてその結果が——全国ネットのテレビ出演依頼だ。
俺は、彼女たちの顔をひとりひとり見渡した。
「……断るかどうかは、ちょっと考えさせてくれ」
重く、しかしはっきりと告げた。
「俺……もうちょっと、自分の言葉で、自分の作品について、ちゃんと説明できるようになりたい」
ヒロインたちはそれぞれ無言になった。
やがて、すみれが小さく微笑んだ。
「……だったら、練習付き合うわよ。“言葉で魅せる”って、文学者の基本ですもの」
「うん! 私も、なんか……ちょっと誇らしい気分だし!」(瑠衣)
「言葉の重みは、記録の正確性で支えるべき。だから、詳細なデータ……」
「それはいいから!!」
笑いが起きた。
全国ネット。
官能作家。
でもきっと、俺が書くべきものは、彼女たちの中にある。
そんな確信とともに、またひとつ、春が深まっていった。
(つづく)
スマホに届いた1通のメールが、俺の運命を大きく変えることになる。
件名:【出演依頼】人気官能小説家・真壁弘弥様へ
内容はこうだった。
《現在、話題沸騰中の電子官能小説『彼女たちは透けて誘惑する』の著者・真壁弘弥様に、
地上波情報番組「日曜の読書室」よりインタビュー出演のご依頼です》
《テーマは『文学としての官能』。全国ネット放送、視聴者は全年齢層です》
《なお、出演の際はペンネーム・顔出し含めたご相談に応じます》
……どうしてこうなった。
俺はスマホを手にしたまま、固まっていた。脳内では編集からの連絡、サイトのランキング、感想欄のコメントが高速で再生されている。心の中で悲鳴をあげていた。
「お兄ちゃん、また変な顔してスマホ見てる……」
リビングに入ってきた碧純が、じっと俺の顔を覗き込んだ。
俺は慌ててスマホを裏返したが、その挙動がむしろ怪しすぎた。
「え? なに? テレビ出演? 官能作家として!? は!?」
「しーっ! しーっ! 声デカい!」
慌てて口を押さえる。しかし、時すでに遅し。
隣の部屋の扉がパタンと開いた。
「官能って……あの!?」「テレビ!? 弘弥くん出るの!?」「番組って、アレよね、ゴールデン帯の……」
ヒロインたちが一人、また一人と顔を出す。
すぐさまリビングの空気は緊張と混乱で満たされた。全員が一斉に喋り出し、俺の声はもはやかき消された。
「ちょっと待って。出演って、内容は!? どこまで話すの!?」(すみれ)
「まさか……モデルが私たちだって……言わないよね?」(イザベラ)
「お兄ちゃん、やばいよ! おばあちゃんが見たらどうするの!?」(碧純)
「バズってるなら、ネグリジェの詳細も語られる可能性……記録要項を提出しておくべき?」(ひより)
「いやいや、まだ断ってないってば!!」
必死に弁明しても、彼女たちの視線は一層鋭くなっていく。まるで“犯人”を追及する刑事たちに囲まれたかのような心境だった。
「弘弥様。あれだけ“文学としての官能”と称しておいて、実は視覚に釣られていただけなら……失望しますわ」(イザベラ)
「それで……番組では、“どのシーンが一番反響あったか”って聞かれたら、どう答えるつもり?」(すみれ)
「まさか……“妹キャラの入浴シーン”とか言うんじゃないでしょうね?」(碧純)
「ぐぅ……」
顔から火が出そうだった。俺は顔を伏せたまま、深くため息を吐いた。
——たしかに。
今や、俺の“煩悩”は作品として世に出て、評価され、拡散されている。
ライトノベルという枠を超え、官能というジャンルで、読者たちの心と体を動かしてしまった。
それはきっと、彼女たちの存在があったから。
碧純の笑顔。
すみれの微笑。
瑠衣の無邪気さ。
ひよりの観察眼。
ユナの不可思議な理論。
イザベラの誇り高き優しさ。
あのネグリジェの夜。
あの沈黙と視線。
すべてが、俺の“創作”を作った。
そしてその結果が——全国ネットのテレビ出演依頼だ。
俺は、彼女たちの顔をひとりひとり見渡した。
「……断るかどうかは、ちょっと考えさせてくれ」
重く、しかしはっきりと告げた。
「俺……もうちょっと、自分の言葉で、自分の作品について、ちゃんと説明できるようになりたい」
ヒロインたちはそれぞれ無言になった。
やがて、すみれが小さく微笑んだ。
「……だったら、練習付き合うわよ。“言葉で魅せる”って、文学者の基本ですもの」
「うん! 私も、なんか……ちょっと誇らしい気分だし!」(瑠衣)
「言葉の重みは、記録の正確性で支えるべき。だから、詳細なデータ……」
「それはいいから!!」
笑いが起きた。
全国ネット。
官能作家。
でもきっと、俺が書くべきものは、彼女たちの中にある。
そんな確信とともに、またひとつ、春が深まっていった。
(つづく)
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