同居のヒロイン達に夢精がバレる俺は、正妻戦争の中心にいるらしい件

第二一三話 国際級お迎え騒動──パンツ一丁での見送り

　俺はエレノアから贈られた、格式高い“王族仕様パンツ”を穿きながら、鏡の前でそっとため息をついた。

（これ、やっぱり履き心地すげぇな……フィット感が絶妙で、なんかもう布の質感が違う……）

　軽くストレッチなんてしてみたりして、まるでパンツCMのモデル気取りでポーズを取っていた——そのときだった。

　ドアのチャイムがけたたましく鳴る。

　そして、ガチャッと扉が開いたその瞬間——

「真壁弘弥殿！ こちらにエレノア・暁・フェリシア・ル・エーデルワイス・リィ殿下はおられますか！」

「……は？」

　玄関先には、全身黒ずくめの男たちが十数名。
　無線を持ち、サングラスに白手袋。どう見ても普通じゃない。

「っ……ま、待て待て待て！ なんでそんな大層な人たちが——」

「殿下が国際会議を離れ、独断で当地に向かわれたとの通報を受け、警護部隊が直ちに行動いたしました！」

「え、まじで！？ エレノア……また国抜けて来てたの！？？」

　外からは、明らかに高級車のアイドリング音、パトカーのサイレン、ヘリコプターの気配まで——

（なんか……家の前、騒がしくない……？）

　ふと窓の外を覗くと、家の前の道路は完全に封鎖状態。
　黒塗りの車列、警官の誘導、遠巻きにスマホを構える近所の人たち……

　まさに“国賓クラスのお迎え”が、住宅街のど真ん中で繰り広げられていた。

　その中に、エレノアの姿があった。
　少しだけ肩をすくめ、申し訳なさそうな微笑みを浮かべている。

　そして——

　俺は、気づいた。

（やべぇ……俺、いまパンツ一丁じゃん！！）

　その瞬間、リビングのドアが開き、護衛のひとりが俺に向かって敬礼した。

「真壁殿、殿下がご挨拶を希望されております。……準備が整いましたら、外へ」

「整ってねぇよ！ パンツだよ今！ しかも国のパンツだよ！！」

　だが、彼らはもう容赦なく促してくる。

「殿下のお時間が限られておりますので……」

　もはや逃げ場はなかった。

　そして——俺は、王族パンツ一丁のまま、玄関の扉を開けた。

　フラッシュ。
　ざわつく人々。
　そして、最前列にいた近所のおばちゃんのつぶやき。

「……まぁまぁ、真壁くんってば、あんな可愛いパンツ履いて……」

　俺の人生の尊厳が、音を立てて崩れ落ちた瞬間だった。

　だが、エレノアは。
　車に乗り込む直前、振り返り——

「……そのパンツ、とても似合っておられますわ、弘弥様」

　そう微笑んで、去っていった。

　俺は、もう、何も言えなかった。

（つづく）