同居のヒロイン達に夢精がバレる俺は、正妻戦争の中心にいるらしい件

本能寺から始める常陸之介寛浩

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第二三八話「“先生は知っている”──秘密とファンと推しへの愛」

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朝の校舎は、いつもより騒がしくて。
たぶん、昨日の「夢精大事件」の余韻が、クラスのあちこちに残ってるんだと思う。

 

──いや、実際、俺がヒロインたち全員と添い寝してた上に、朝イチで“白い結末”を迎えたってことが、もう都市伝説みたいに囁かれてる。
あと何回死ねば、この羞恥は浄化されるんだ。

 

「……って言ってんだよ、でもさー、“誰”が相手だったかって話はまだ未確定だって!?」

「ねー、マジで真壁くんのこと“王子”って呼びたくなるわ~」

「でも私的には、ひよりんの謎パジャマ攻撃が犯人だと思ってる」

 

女子たちのささやきが耳に刺さる。
顔を隠しながら、そそくさと職員室前の廊下を通りすぎようとした、そのとき──

 

「……あの、“あかりのアクリルスタンド”、再販まだですか……」

 

──ん?

 

聞き覚えのある声が、開きかけた職員室のドア越しに聞こえた。

 

「え、えっと……“アカリ”って、俺の作品に出てくる──」

 

俺は思わず、ドアの影から中を覗いてしまった。

 

そして。

 

見てしまった。

 

黒沢先生──あの、**担任の黒沢結花先生(29)**が、スーツ姿のまま、コソコソと自分のスマホを操作しながら、何かを画面に食い入るように見ていた。

 

「“あのとき、そっと腕を引いてくれた君が、いちばん優しかった”……っ、アカリ……やっぱり尊すぎる……!」

 

その指先には、俺の作品の最新刊の電子版。

 

そして、机の引き出しから──

 

「よし……誰もいないし、ちょっとだけ……♡」

 

アカリ(=白神ルナがモデル)のタペストリー入りミニポスターを、そっと取り出して頬ずりした。

 

「ちょ、ちょっっっ!?!?!?」

 

声が出た。

いや、出てしまった。

完全に、全身で出してしまった。

 

「──真壁くん!?!?!?!?」

 

ポスターを抱えたまま硬直する先生と、見てはいけないものを見てしまった俺。

その間に、数秒の静寂が落ちる。

 

「え、え、え、えっと……」

 

「これは……違うのよ!? そのっ、資料研究用であって、あくまで教育的な観点から──!!」

 

「ポスターに頬ずりしてましたよね!?」

 

「だ、だからそれはっ! 推しの健康状態を調べる目的で、その、表面の光沢と印刷精度を……っ!」

 

「つまりガチのファンってことじゃないですかぁぁぁっ!!」

 

「そ、そそそ、そんなことあるわけないじゃないのッ! 私は教師よ! 教師が自分の生徒の作品に感情移入して推しにガチ恋してるなんて、そんな、そんな──」

 

──そのときだった。

先生のスマホが通知音を鳴らした。

【“アカリ、あなたのことが……す、す……好き!”】
──読書アプリのハイライト引用通知だった。

 

「うわああああああああっ!?!?」

 

黒沢先生、職員室の壁に激突して倒れる。

俺、うろたえる。

 

そして、沈黙。

 

「……ま、真壁くん」

 

床にぺたんと座った先生が、こちらを見上げる。

 

「その……バレちゃった、よね?」

 

「……ですね」

 

「……君の作品、“全部”読んでるの。デビュー作の“初版刷りミス”の誤字も知ってる。あと、“夢精回”の構成力は、ガチで尊敬してるの。……なんであんなにエモくてエロいの……?」

 

「……ありがとうございます」

 

「あと、アカリちゃんの“ノーブラは戦闘服”ってセリフ、どうして書けたの!?!?!?」

 

「それは……本当に俺も謎なんです」

 

 

──こうして。

俺は、自分の担任が“ルナ推し・夢精回絶賛勢の全力ファン”であることを知った。

 

「……君の、リアルラブコメも……“観察”してみたい、かな」

 

「こわいこわいこわいこわい!!!」

 

 

◆ ◆ ◆

 

その日のホームルーム。

先生は何事もなかったかのように板書していたが、最後にひと言だけ、俺にウインクしながら言った。

 

「真壁くん。“文化祭の出し物”、そろそろ決めてね? “彼女役”、誰にするか含めて」

 

──ニヤリと笑う“担任”という名のガチファン。

その瞳の奥には、
“誰がヒロインになるのか、誰より楽しみにしてるオタクの目”が光っていた。
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