同居のヒロイン達に夢精がバレる俺は、正妻戦争の中心にいるらしい件

本能寺から始める常陸之介寛浩

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第二四七話「崩れる天才、舞台で倒れる──涙の病室と、初恋の再会」

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サイレンの音が、遠くなる。

ぼんやりとした意識の中で、誰かが俺の名前を呼ぶ声がした。

 

「……ひろや……起きてよ……お願い……!」

 

聞き慣れた声。
泣きじゃくる声。
でも、遠い。

 

──そして、気を失った。

 

 

◆ ◆ ◆

 

気がついたとき、
俺は、病室のベッドの上にいた。

点滴が刺さった腕。
白い天井。
淡く響く電子音。

 

そして──

 

「……目、覚めた?」

 

聞こえたその声に、
俺は、思わず顔を向けた。

 

そこにいたのは──
ナース服を着た、大人びた女性。

 

栗色の髪を後ろでまとめ、穏やかに微笑むその人は、

 

──篠宮 みつき(しのみや・みつき)さん。

俺の初恋の人。

6つ年上の、幼馴染だった。

 

「お、お姉ちゃん……?」

 

「ふふ、いまだにそう呼んでくれるのね。ひろやくん」

 

なぜ今!? なんでここに!?

……でも、みつきお姉ちゃんは、
優しく俺の額に手を当てて言った。

 

「大丈夫。熱も下がってきてる。過労ね。ラノベ、アニメ、文化祭、恋愛──全部全力なんだもの、倒れて当然よ」

 

「……見てたの?」

 

「うん。ちょうどこの病院に異動してきたところだったの。
それで、“まかべ弘弥くん”って名前見て、まさかって思って──」

 

そして彼女は、
そっと俺の髪を撫でて、微笑んだ。

 

「大きくなったね、ひろや。……でも、無理しちゃダメよ」

 

 

◆ ◆ ◆

 

病室の外。

 

ドアの向こうには、
碧純、すみれ、ルナ、りあ、ひより、イザベラ、そして黒沢先生──

全員が、泣きはらした目で並んでいた。

 

「ひろや……大丈夫だった……!」

「本当に……死んじゃうかと思った……」

「観察不能になるところだった……(ボソッ)」

「“一番好き”って言わせる前にいなくなられたら、怒るからね……!」

 

ヒロインたちが、次々に思いをぶつけようとした──そのとき。

 

「……ごめんなさい。少しだけ、付き添わせてあげて」

 

白衣姿の篠宮みつきが、病室のドアを開けて出てきた。

 

彼女を見た瞬間、全員の空気が変わる。

 

「え……どなた、ですか……?」

 

「わたし……この子の“初恋”です」

 

 

──絶句。

 

「初恋!?」「今“初恋”って言った!?」「なんで大人の女が出てきたの!?」「え、絶対美人なんだけど!?」「えええええええ!!」

 

怒涛のリアクション。

一人ひとりの顔に、「ライバル登場」の三文字が浮かんでいた。

 

 

「そ、そんなの……そんなの、認められるわけないでしょ……!」

 

震える声で碧純が言った。

 

「弘弥くんの初恋の人なんて……今さら現れて、“付き添いさせて”って……どんな立場で言ってるのよ!」

 

みつきは少しだけ驚いたように目を見開き、そして──

 

「……“将来の嫁候補”として、かな?」

 

 

ヒロイン全員:撃沈寸前。

 

「ちょ、ちょ、まって!? なんか大人の余裕で持ってかれてる!?!?」「この人マジで危険すぎる……!」

「……弘弥くん、ほんとに……こんな人が初恋だったの……?」

 

そして病室から聞こえた──

 

「みんな……けんか、しないで……」

 

かすれた声だった。

でもその一言で、全員がピタリと静まり返った。

 

 

「……ひろや……」

 

「わかってる。みんなが心配してくれて、嬉しかった。
でも……みつきお姉ちゃんも、“俺の過去”なんだ」

 

「今を……作ってくれた人だけど、
俺が選ぶ“未来”は、これから決める」

 

 

その言葉に、ヒロインたちの目が少し潤んで、でも──

強く、うなずいた。

 

そして──

 

篠宮みつきは、少しだけ切なげに微笑んで、
ゆっくりと病室の扉を閉めた。

 

「……大人は、退場よね。今の君には、未来の恋があるから──」

 
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