同居のヒロイン達に夢精がバレる俺は、正妻戦争の中心にいるらしい件

本能寺から始める常陸之介寛浩

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第二六五話 「夜の露天風呂と、選べない想い──しんしんと湯けむりに沈む声」

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夜も更けた。

花火の余韻がまだ胸の奥に残るまま、
宿の露天風呂へと足を運んだ。

月明かりが湯面に反射し、竹林が風に揺れている。
他の宿泊客はいない。時間をずらして、ひとり。

湯に浸かると、全身の疲れがほどけていくようだった。

「はああ……」

バーベキュー、海、花火──
楽しくて、賑やかで、あっという間で。

でも、静かなこの時間になると、
頭に浮かんでくるのは、どうしても“考えすぎてしまうこと”だった。

──誰かを、選ばなきゃいけない。

それは、ふざけて言われたことじゃない。

本気で、
誰かの人生を預かることになるかもしれない重さで──

「……無理だよ、そんなの」

湯けむりの向こうに誰もいないのを確認して、俺はぽつりと呟いた。

碧純のまっすぐな想い。
すみれの静かで深い優しさ。
ルナの明るさと本気。
ひよりの無言の観察と距離感。
りあの強い執着と寂しさ。
イザベラの純粋で異国の愛情。
そして……みつきさんの、ずっと前からの“特別”。

誰か一人だけを選ぶ。
それって、本当にできるのか?

自分が誰よりも“選ばれたことのない”人間だったからこそ、
簡単には選べない気がした。

「……ずるい、って思われても……今はまだ、全部が大事なんだ」

湯に顔をつける。
一瞬だけ、世界が遮断される。

(でもきっと──答えは、いつか出さなきゃいけない)

そのときが来るまでに、
俺は、もっと強くなれるだろうか。

◆ ◆ ◆

湯から上がり、バスタオルで髪を拭きながら夜空を見上げると、
月が静かに雲の隙間に顔を出していた。

夜はまだ、終わっていない。

そして、この夏も──まだ、終わらない。
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