同居のヒロイン達に夢精がバレる俺は、正妻戦争の中心にいるらしい件

本能寺から始める常陸之介寛浩

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第三一三話 「当たり前でしょ、幼なじみだもん──ただし、彼女はヤンデレです」

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 放課後。
 職員室の前の廊下で、偶然みつきと出くわした。

 看護師の制服ではなく、私服姿。
 今日は勤務明けらしく、コンビニ袋を提げていた。

「おお、弘弥。ちょうどよかった」

「みつき姉……?」

「ちょっとだけいい? あゆむのことなんだけどさ」

 その名前に、一瞬ぴくりと肩が動いた。

(来たか……)

 みつきは静かに笑いながらも、どこか真剣な目でこちらを見る。

「……あの子さ、難しい性格してるんだ。昔からずっと」

「難しい、って?」

「小さいころ、ほら……お兄ちゃんのことが一番だったから。あんたのこと、ずっと特別に見てる」

「……あはは、まぁ……うん。でも、大丈夫だよ」

 俺は胸を張って言った。

「だって、幼なじみだもん」

 言った直後──

(あれ?)

 みつきが、一瞬だけ表情を止めた。

「……そっか。あゆむにとっても、それはきっと“当たり前”なんだろうね」

「うん、だから──」

「でもね弘弥。あの子、”当たり前”って言葉をすごく怖がる子なんだよ」

「え?」

「自分が“特別じゃない”って分かったとき、一番壊れるタイプ」

 その一言が、胸に突き刺さる。

「気をつけてやってね」

 そう言い残して、みつきは軽く手を振って去っていった。

 ◆ ◆ ◆

 帰宅後。

 あゆむは、いつも通りエプロン姿で出迎えてくれた。

「おかえりなさい、お兄ちゃん」

「……ただいま」

「今日はね、弘弥の好きなカレー作ったよ。ちゃんと甘口!」

「おお……ありがとう」

「……でもね」

 カレーのスプーンをすくいながら、あゆむがぽつりと言った。

「すみれさんって、弘弥とよく図書室で話すよね?」

「え、まぁ……たまに?」

「じゃあ、ひよりちゃんは? あの子、観察ノート書いてるでしょ?」

「え、あれは……まぁ……なんていうか、あの子の趣味だから──」

「そっかぁ。みんな弘弥と“仲良し”なんだね」

 あゆむはにっこり笑う。

 笑っているのに、スプーンを握る手が小刻みに震えている。

「でも……“一番”は、私だよね?」

 その言葉が、部屋の空気を変えた。

(ヤバい)

 俺の中の何かが、本能的に警鐘を鳴らしていた。

 その夜。

 ベランダに干した洗濯物が、なぜか一枚だけ足りなかった。

 その翌日──

 すみれの机の中に、俺のTシャツが丸められて入っていた。

 俺が家でなくした、はずの。

(……まさか)

 あゆむの視線が、教室の端からじっとこちらを見ていた。

 ──“一番”じゃなければ意味がない。
 そんな目だった。
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