同居のヒロイン達に夢精がバレる俺は、正妻戦争の中心にいるらしい件

本能寺から始める常陸之介寛浩

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第三一二話 「はじまりの執着──あゆむ、静かに牙を剥く」

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「弘弥お兄ちゃん、今日は誰と一緒に帰ったの?」

 放課後。
 下駄箱で靴を履いていた俺に、背後から声がかかった。

「あ、あゆむ……えっと、今日はすみれと図書室寄ってただけで──」

「ふぅん、すみれさんと……仲いいんだね」

 ぱちん、と音を立てて、あゆむが傘を開いた。

 その表情はいつも通り微笑んでいたけど、
 目だけが笑っていなかった。

「……別に、仲良くないよ。普通のクラスメイト」

「うん。じゃあ、よかった」

 その一言に、ほんの少しだけ背筋が冷えた。

 ◆ ◆ ◆

 その夜。

 風呂から上がると、洗面所の鏡に何かが貼られていた。

 《お兄ちゃんを取らないでね♡》

 かわいいハートマークと、柔らかい文字。
 でも──それが誰に向けて書かれたのかは、分からなかった。

 いや、わかってた。

(まさか……あゆむが……?)

 けれど、それを問い詰める勇気は出なかった。

 ◆ ◆ ◆

 翌朝。

 食卓で、いつものように全員で朝食をとっていた。

 ルナが笑いながら言う。

「昨日さ、すみれと弘弥が図書室で一緒だったって?」

「そ、そうなんだよ。たまたま本の貸し出しで……」

「へぇ~、いい感じだったの?」

「……全然そんなことないって」

 その時だった。

 コトッ。

 カップを置く小さな音がした。

 あゆむだった。

「いいなぁ、みんな自由で」

 声のトーンは穏やかだったのに、空気がピンと張り詰めたように感じた。

「お兄ちゃんは、誰と一緒にいると楽しいの?」

 静かな声。けれど、言葉の奥に鋭い針が潜んでいる。

「べ、別に……誰ってわけじゃ──」

「そっか。じゃあ、私が一番になれるように頑張るね」

 その瞬間、あゆむの目がほんの一瞬だけ光を失ったように見えた。

 そして笑う。

 とても柔らかく、けれど冷たい笑顔で。

 ◆ ◆ ◆

 夜。

 机の上に置かれた俺のスマホが震えた。

 非通知着信。

 出ようか迷っていると、留守電が残されていた。

『──お兄ちゃん、誰とも仲良くしないで』

『全部、壊しちゃいたくなるから』

 背筋が凍った。

(これは、ほんとに──)

 ヤンデレの匂いが、日常に静かに混ざり始めていた。
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