同居のヒロイン達に夢精がバレる俺は、正妻戦争の中心にいるらしい件

第四二〇話 「夢精が銀幕へ──ハリウッド映画化、決定！」

　──それは、あまりにも唐突で、現実味のない話だった。

「……え？」

　俺は、スマホを握ったまま時が止まった。

　送られてきた一通のメール。そこに書かれていたのは、信じがたい文字列だった。

『貴殿の著作『夢精で世界を救った少年、次は“愛”を知る。』
　ハリウッドにて映画化、正式決定のお知らせ。』

　……え？

「はい、というわけで！ 弘弥くん、おめでとうございます♡」

　いつものようにノートPC片手に現れたのは、担当編集者・久遠美月。

　童顔で低身長ながら、容赦のない毒舌と超辣腕を兼ね備える、この人が──いつも通りニヤついていた。

「な、なんでそんなテンション高いんですか！？ 俺まだ信じてないですよ！？ これ夢とかじゃ──」

「夢だったら、今ごろ夢精して目覚めてるでしょ？」

「ちょっと黙ってください！ 世界に向けてその単語を言わないでください！！」

「で、主演はね……アレックス・ケインよ」

「……っ！？」

　俺は、言葉を失った。

　アレックス・ケイン。
　あの、世界的人気と演技力を兼ね備えた、俺の“憧れ”の俳優。

　主演作のBlu-rayはすべて持ってるし、インタビュー記事は額縁に入れて飾ってる。

　そんな彼が──俺の物語の主人公を演じる？

　“夢精するたびに世界を救う少年”を！？

「終わった……俺の尊敬が変な方向に汚された……！」

「いやいや、“青春を演じる”って点ではピッタリでしょ？」

　そこへヒロインたちが、なぜか全員集合。

「ハリウッドってマジ！？」 「ちょっと待って、“夢精”が世界に！？」 「私たちの“あの夜”も映画化されるの！？！？」

　混乱と困惑と期待と羞恥の渦巻くリビング。

　そして、碧純がぽつりと。

「……つまり……弘弥の夜の記録が……全世界に上映されるってこと！？」

「やめてくれえええええ！！」

「ま、とにかく！ プレミア参加も決まってるから、早めにパスポート取ってね♡」

「なんかすごく軽い感じで言ってるけど、渡米ってそんな簡単に──」

「ご安心を」

　声の主は、上品で凛とした佇まいのエレノア・暁・フェリシア・ル・エーデルワイス・リィ。

「すでにすべて手配済みですわ。」

「えっ」

「弘弥様は私の“親友待遇”として、国賓扱いで渡米いたします。パスポートは外交旅券扱い。ヒロインの皆様も“随行者”として登録済みです」

「やりすぎぃぃぃぃぃ！！！」

「ていうか国賓って何！？ ハリウッドってエレノア殿下の人脈で行けるの！？」

「ええ、我が王国の文化交流枠に“夢精文学”を組み込みました」

「勝手に国の文化財にしないでぇぇぇ！！」

　その夜。
　俺の部屋では、誰かが叫び、誰かがスーツケースに衣装を詰め、誰かが“機内で読むべきラノベ”を山ほど用意していた。

「よーし！ ルナ特製“ハリウッドモテメイク”講座開講！」 「弘弥くんのスーツ、着こなしは任せてください」 「配信機材は持ち込めますか？空港でバズりたいので」

　俺は──心底、思った。

（俺の“夜”が世界を照らすなんて、誰が予想できた……！？）