同居のヒロイン達に夢精がバレる俺は、正妻戦争の中心にいるらしい件

本能寺から始める常陸之介寛浩

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第四八二話『お風呂上がりの、ほんのりいい匂い』

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 脱衣所の扉が静かに開き、ふわりと湯気を纏ったミレーヌが現れた。

 ローブ姿の彼女の髪は、金銀色がさらに柔らかく広がり、湯上がり特有のふわふわとしたボリュームをまとっている。

 その髪から、ほんのりと漂ってくるのは、甘く優しい石鹸とハーブの香りだった。

「……っ」

 俺は、息を呑んだ。

 あの、強烈だった天然香気は影も形もなく、今ここに立つのは──
 まるで本当に、異国の精霊そのものだった。

 ミレーヌ自身も、照れくさそうにローブの袖をいじりながら、俺のほうを見た。

「弘弥様……」

 おそるおそる、そう呼びかけてくる声は、どこか不安げだった。

 俺は、ゆっくりと彼女に歩み寄る。

 香りが、近づくたびに優しく強くなっていく。
 けれど、さっきまでの苦しみは一切ない。

 ただ、心地よい温もりに包まれるだけだった。

 俺は、自然に言葉を零していた。

「……すごく、いい匂いだよ」

 その瞬間、ミレーヌの顔が真っ赤に染まった。

「ぁ、ぁぁ、あの、そ、それは……!」

 ローブの袖で顔を隠しながら、耳まで真っ赤になっている。

 目も合わせられず、ただ小さく肩を震わせていた。

「別に……わたくし、その、特別な意図があったわけではなく……!」

 ミレーヌのしどろもどろな弁解が、逆に可愛らしさを倍増させていた。

 その様子を、少し離れた場所から見ていたヒロインたちも──

「……え、これ、普通にやばくない?」

 ルナが、冷や汗を垂らしながら言った。

「強敵……いや、脅威……」
 碧純が真顔で頷く。

「観察対象、戦闘力大幅上昇確認」
 ひよりがメモを取る手を止めずに言う。

「黄金の使徒、香りにより覚醒完了」
 ことねが意味不明な呪文を唱えている。

 そしてすみれは、腕を組みながら静かに呟いた。

「……これは、かなり、手ごわいわね」

 その声には、明確な警戒が滲んでいた。

 俺は、そんな彼女たちの視線に全く気づかず、

 ただ、目の前のミレーヌだけを見つめていた。

 石鹸とハーブの混じった香り。
 湯上がりのふわふわとした髪。
 そして、必死に顔を隠している小さな手。

 全部が、たまらなく愛おしかった。

「ミレーヌ」

 俺は、そっと彼女の手を取った。

 その瞬間、ミレーヌはびくっと肩を震わせたが、

 逃げることはなかった。

「これからも、こうして、たくさん一緒に思い出作ろうな」

 俺の言葉に、ミレーヌはゆっくりと手を緩めた。

 そして、真っ赤な顔のまま、
 小さく、けれど確かな声で答えた。

「……はいっ……!」

 その一言は、

 柔らかな湯けむりよりも、
 春風のような香りよりも、

 ずっと、あたたかかった。
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