489 / 630
第四八二話『お風呂上がりの、ほんのりいい匂い』
しおりを挟む
脱衣所の扉が静かに開き、ふわりと湯気を纏ったミレーヌが現れた。
ローブ姿の彼女の髪は、金銀色がさらに柔らかく広がり、湯上がり特有のふわふわとしたボリュームをまとっている。
その髪から、ほんのりと漂ってくるのは、甘く優しい石鹸とハーブの香りだった。
「……っ」
俺は、息を呑んだ。
あの、強烈だった天然香気は影も形もなく、今ここに立つのは──
まるで本当に、異国の精霊そのものだった。
ミレーヌ自身も、照れくさそうにローブの袖をいじりながら、俺のほうを見た。
「弘弥様……」
おそるおそる、そう呼びかけてくる声は、どこか不安げだった。
俺は、ゆっくりと彼女に歩み寄る。
香りが、近づくたびに優しく強くなっていく。
けれど、さっきまでの苦しみは一切ない。
ただ、心地よい温もりに包まれるだけだった。
俺は、自然に言葉を零していた。
「……すごく、いい匂いだよ」
その瞬間、ミレーヌの顔が真っ赤に染まった。
「ぁ、ぁぁ、あの、そ、それは……!」
ローブの袖で顔を隠しながら、耳まで真っ赤になっている。
目も合わせられず、ただ小さく肩を震わせていた。
「別に……わたくし、その、特別な意図があったわけではなく……!」
ミレーヌのしどろもどろな弁解が、逆に可愛らしさを倍増させていた。
その様子を、少し離れた場所から見ていたヒロインたちも──
「……え、これ、普通にやばくない?」
ルナが、冷や汗を垂らしながら言った。
「強敵……いや、脅威……」
碧純が真顔で頷く。
「観察対象、戦闘力大幅上昇確認」
ひよりがメモを取る手を止めずに言う。
「黄金の使徒、香りにより覚醒完了」
ことねが意味不明な呪文を唱えている。
そしてすみれは、腕を組みながら静かに呟いた。
「……これは、かなり、手ごわいわね」
その声には、明確な警戒が滲んでいた。
俺は、そんな彼女たちの視線に全く気づかず、
ただ、目の前のミレーヌだけを見つめていた。
石鹸とハーブの混じった香り。
湯上がりのふわふわとした髪。
そして、必死に顔を隠している小さな手。
全部が、たまらなく愛おしかった。
「ミレーヌ」
俺は、そっと彼女の手を取った。
その瞬間、ミレーヌはびくっと肩を震わせたが、
逃げることはなかった。
「これからも、こうして、たくさん一緒に思い出作ろうな」
俺の言葉に、ミレーヌはゆっくりと手を緩めた。
そして、真っ赤な顔のまま、
小さく、けれど確かな声で答えた。
「……はいっ……!」
その一言は、
柔らかな湯けむりよりも、
春風のような香りよりも、
ずっと、あたたかかった。
ローブ姿の彼女の髪は、金銀色がさらに柔らかく広がり、湯上がり特有のふわふわとしたボリュームをまとっている。
その髪から、ほんのりと漂ってくるのは、甘く優しい石鹸とハーブの香りだった。
「……っ」
俺は、息を呑んだ。
あの、強烈だった天然香気は影も形もなく、今ここに立つのは──
まるで本当に、異国の精霊そのものだった。
ミレーヌ自身も、照れくさそうにローブの袖をいじりながら、俺のほうを見た。
「弘弥様……」
おそるおそる、そう呼びかけてくる声は、どこか不安げだった。
俺は、ゆっくりと彼女に歩み寄る。
香りが、近づくたびに優しく強くなっていく。
けれど、さっきまでの苦しみは一切ない。
ただ、心地よい温もりに包まれるだけだった。
俺は、自然に言葉を零していた。
「……すごく、いい匂いだよ」
その瞬間、ミレーヌの顔が真っ赤に染まった。
「ぁ、ぁぁ、あの、そ、それは……!」
ローブの袖で顔を隠しながら、耳まで真っ赤になっている。
目も合わせられず、ただ小さく肩を震わせていた。
「別に……わたくし、その、特別な意図があったわけではなく……!」
ミレーヌのしどろもどろな弁解が、逆に可愛らしさを倍増させていた。
その様子を、少し離れた場所から見ていたヒロインたちも──
「……え、これ、普通にやばくない?」
ルナが、冷や汗を垂らしながら言った。
「強敵……いや、脅威……」
碧純が真顔で頷く。
「観察対象、戦闘力大幅上昇確認」
ひよりがメモを取る手を止めずに言う。
「黄金の使徒、香りにより覚醒完了」
ことねが意味不明な呪文を唱えている。
そしてすみれは、腕を組みながら静かに呟いた。
「……これは、かなり、手ごわいわね」
その声には、明確な警戒が滲んでいた。
俺は、そんな彼女たちの視線に全く気づかず、
ただ、目の前のミレーヌだけを見つめていた。
石鹸とハーブの混じった香り。
湯上がりのふわふわとした髪。
そして、必死に顔を隠している小さな手。
全部が、たまらなく愛おしかった。
「ミレーヌ」
俺は、そっと彼女の手を取った。
その瞬間、ミレーヌはびくっと肩を震わせたが、
逃げることはなかった。
「これからも、こうして、たくさん一緒に思い出作ろうな」
俺の言葉に、ミレーヌはゆっくりと手を緩めた。
そして、真っ赤な顔のまま、
小さく、けれど確かな声で答えた。
「……はいっ……!」
その一言は、
柔らかな湯けむりよりも、
春風のような香りよりも、
ずっと、あたたかかった。
0
あなたにおすすめの小説
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる