同居のヒロイン達に夢精がバレる俺は、正妻戦争の中心にいるらしい件

本能寺から始める常陸之介寛浩

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第四八一話『入浴チャレンジ──初めての湯けむり』

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 その日。
 湯庵つくば──市内でも評判の温泉施設に、俺たちは再び集結していた。

 目的はただ一つ。

 ミレーヌ=フィオナ=ヴァレンティーヌ、
 異国の純白エルフもどき美少女を──
 初めての日本式入浴へ導くこと。

「弘弥様のため……」

 ミレーヌはロッカールームで、真剣な顔をして呟いた。

「わたくし、覚悟を決めました……!」

 その気迫に、俺たち一同──碧純、すみれ、ルナ、ひより、ことね──は思わず拍手を送った。

「よく言った! ミレーヌ!」

「やっと……これで世界が救われる……!」

「観察対象、ついに新たなステージへ」

「神々よ、清めの時が来た……」

 謎のセリフも混ざったが、今は気にしない。

 それよりも、だ。

(……大丈夫かな、あいつ)

 俺は密かに不安だった。

 何せミレーヌは、人生で一度も湯船に浸かったことがないらしい。
 エルミナ王国では、全身を香油で拭き取る文化が主流らしく、
 「体を湯に沈める」という行為自体が未知の領域なのだ。

 案内のため、俺とすみれが男女別に同行する形になった。
 碧純とルナは女子エリアから応援、ひよりとことねは別枠で記録係に回った。

 俺は男湯から早めに上がり、ロビーで待機していた。

 そして──

「ひゃああああああああっ!!」

 更衣室の向こうから、悲鳴が上がった。

「な、なにがあった!?!」

 慌てて駆け寄ると、スタッフのお姉さんが苦笑しながら教えてくれた。

「ええと……お湯が“煮える”ってパニックになられまして……」

「煮える!?」

 そのまま、さらに湯船エリアから叫び声が響く。

「こ、これ、溶けるのでは!? わたくしの肉体が液状化するのではっ!?」

「安心してミレーヌちゃん! 溶けないから! 大丈夫だから!」

 すみれが必死でなだめている声が聞こえる。

「いや、しかしっ! 水面に浮かぶ湯気、この熱気、そしてこのぬめり感……これは間違いなく、人類を溶かす罠ですわっ!!」

 お前、温泉をなんだと思ってるんだ。

「これ以上進んだら、わたくし……! もう元の形に戻れないかも……!」

 半泣きで浴槽の縁を掴んでいるミレーヌの姿が、ドア越しに見えた。

「ミレーヌ、入る前にかけ湯だよ。いきなりザブンはダメ」

「か、かけ湯……? 体を、洗い清める儀式……?」

「まぁ、そんな感じ!」

 すみれが器用にフォローする。

 ミレーヌはぶるぶる震えながら、桶を手に取り、
 湯をすくって、そっと足元にかけた。

 その瞬間。

「しゅわわわわっ!?!」

「溶けてないから!!」

 すみれが爆笑しながら支える。

「勇気を出して、入ってごらん」

 優しく背中を押されたミレーヌは、震えながら片足を湯船に入れた。

 じんわりと温かい感触が、足を包む。

「……あ、あれ?」

 ミレーヌが小さく呟いた。

 もう片方の足も、そろそろと沈める。

 そして、ゆっくりと身体を沈めると──

「……あったかい……」

 その表情が、驚きと感動に満ちたものに変わった。

「気持ち、いい……かも……」

 初めての湯けむりに包まれて、ミレーヌの顔がほころぶ。

 ロビーのモニター越しに、それを見ていた俺たちは思わずガッツポーズを決めた。

「やったぁぁぁ!!」

「これで勝った!」

「観察対象、温泉適応成功」

「黄金の魂よ、いま蘇れ……!」

 みんな、全力で喜んだ。

 それくらい、長い長い戦いだったのだ。

 ミレーヌは、湯船の中でぽかんと空を見上げていた。

「……不思議ですね。お湯に浸かっているだけなのに、
 心が……とても、あたたかいです」

 その横顔は、初めて見る、自然な笑顔だった。

 俺は胸の奥が、じんわりと熱くなるのを感じた。

(よかったな、ミレーヌ)
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