同居のヒロイン達に夢精がバレる俺は、正妻戦争の中心にいるらしい件

本能寺から始める常陸之介寛浩

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第四八〇話『ツンデレ、爆発す』

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 作戦決行から数日後。

 放課後の教室に、俺たちはまた集合していた。

 ミレーヌを囲んで、入浴啓蒙作戦の最終段階──実際に入浴するかどうかの決断を、彼女に迫る場面だった。

 すみれ、ルナ、ひより、ことね、碧純、そして俺。
 みんな、静かにミレーヌの答えを待っていた。

 だが。

「わたくしが、臭いなど……ありえませんっ!!」

 ミレーヌが、怒りで頬を膨らませながら叫んだ。

 その金銀混じりの髪が、憤慨のあまりぶわっと広がる。

 教室に、沈黙が落ちた。

 さすがに、全員が絶句する。

「だ、だって……ちょっと、こう、ね?」

 ルナが遠回しに言葉を選ぶが、

「確かに、入浴には健康効果があるのは事実だけど……」
 すみれも微妙なフォローを入れる。

 しかし、ミレーヌの怒りは収まらない。

「わたくしは、誇り高きエルミナ王国の令嬢です!
 そんな、そんな、不浄なものを纏っているはずがありませんわ!」

「いやいや、いやいやいや……」

 俺たちは目を逸らすしかなかった。

 香ってるのは事実だからだ。

 だが、それを真っ向から言うことは、できなかった。

 なぜなら、ミレーヌの瞳があまりにも純粋だったから。

 そして、次の瞬間。

「それに、あなたなんか、別に! 好きじゃないですからねっ!」

 ミレーヌが、顔を真っ赤にして叫んだ。

 ビシィッと指を突きつけてくる。

「だ、だいたい、わたくしが日本に来たのも! 弘弥様がここにいるって知ってたからじゃありませんっ!
 たまたま! ええ、たまたまですともっ!」

 矢継ぎ早に繰り出されるツンデレ爆撃。

「あなたの作品が、たまたま、エルミナ王国で流行っていただけで、
 わたくしが個人的に読破して、感動して、人生変えられて、夢にまで見て、日本語まで猛勉強したとか、
 そんなこと、絶対にありませんからねっ!!」

 もはや自己矛盾の嵐だった。

 俺たちは、言葉を失った。

 ミレーヌは、息を切らしながら仁王立ちしている。

 顔は真っ赤、耳まで染まっている。

 全身全霊で、プライドと恋心を同時に守ろうとしている姿。

 その必死さに、俺はふと、微笑みたくなった。

(……可愛いな)

 そんなことを思ってしまったのだ。

 俺は、ゆっくりとミレーヌに向かって歩み寄った。

 彼女の放つ香りが、濃厚に俺を包み込む。

 だが、俺は耐えた。
 慣れたわけじゃない。
 でも、それ以上に、目の前の少女の気持ちに応えたかった。

 だから、俺は、まっすぐにミレーヌを見つめて言った。

「……それでも、嫌いじゃないよ」

 ミレーヌの動きが、止まった。

 金色の睫毛が震え、エメラルドグリーンの瞳が見開かれる。

「わたくしは……」

 何かを言おうとして、ミレーヌはうつむいた。

 頬はさらに紅潮し、手のひらをぎゅっと握りしめる。

 そして、小さな声で呟いた。

「……ありがとう、ございます……」

 その声は、か細く震えていた。

 教室には、優しい沈黙が落ちた。

 俺も、ヒロインズも、誰も言葉を発しなかった。

 ただ、静かに──

 ミレーヌが、一歩、俺のほうへ近づいてきた。
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