同居のヒロイン達に夢精がバレる俺は、正妻戦争の中心にいるらしい件

本能寺から始める常陸之介寛浩

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【第五一六話】『即興舞台で、想いが漏れる』

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 体育館の舞台裏。
 本番中にもかかわらず、緊張と興奮と、ほんの少しの恐怖が弘弥を襲っていた。

(台本もぐちゃぐちゃ、シナリオもアドリブ、どうすんだこれ……)

 しかし、幕はもう上がっている。
 引き返すことはできなかった。

 舞台袖で深呼吸していると、ルナがぴょんと近寄ってきた。

「お兄、大丈夫! 適当にノリでいこうぜ!」

 無茶を言うなとツッコミたい気持ちを押し殺しながら、弘弥は立ち上がる。

 ◆

 照明が当たる舞台上。
 物語は「王国の姫を救う勇者」という設定だったが、もはやそんな設定すら危うい。

 そんな中──
 事件は起きた。

「勇者様っ!」

 最初に駆け寄ってきたのは、ルナ姫役だった。

「ずっと……待ってたんだから!」

 ──そこまではいい。問題は、その後だ。

「……あたし、お兄が好き。ずっと、大好きだったんだから!」

 瞬間、観客席がざわっと沸いた。

(え、え、今、アドリブ? セリフ? 本音!?)

 弘弥は固まる。
 それでも必死に演技を続けようとしたその時、次に碧純が乱入してきた。

「兄っ!」

 従者役のはずの碧純が、勢いよく弘弥に抱きつき、

「誰にも渡さないって、決めてたんだから!」

 と言い放った。

(いや、台本にそんなシーンないから!!)

 心の中で叫ぶ弘弥。
 しかし止まらない。

「弘弥くん……」

 すみれが、静かに近づいてきた。

「……あなたの隣にいられるなら、私はそれだけで幸せです。」

 しっとりとした声。
 観客席から感動のため息が漏れる。

(すみれさんまで本音っぽくない!?)

「観察対象──恋愛感情、現在進行形。」
 ひよりが棒読みで近づき、唐突に弘弥の手を握った。

「データ収集完了──好き、です。」

(収集してから告白するなあああああ!!!)

「弘弥様っ!」

 ミレーヌが涙目で飛び込んでくる。

「あなたに出会って……わたくし、本当に、変われたんです!」

 感情が爆発したような彼女の叫びに、観客席は拍手と歓声に包まれた。

 そして──

「弘弥様、覚悟なさい!」

 エレノアが、王族らしい高貴な微笑みを浮かべながら歩み寄る。

「わたくしは、あなたを選びます。
 この命にかえても、必ず──愛し抜きますわ!」

 まるでリアルなプロポーズだった。

(ちょっと待ってマジでどうなってんのこの舞台!?)

 完全に脳がバグっている弘弥。
 しかし、極めつけは。

「……弘弥。」

 最後に現れたのは紗凪だった。

 彼女は、ゆっくりと、
 でも確かな足取りで弘弥の前に立った。

「……好き。
 ずっと、ずっと、あなただけだった。」

 静かに、だけど確実に、会場全体に響く声で。

 観客席は一瞬で静まり返った。
 水を打ったような沈黙の中、紗凪の想いだけが、確かに舞台を支配していた。

 弘弥は──何も言えなかった。

 ただ、胸の奥に、
 強く、確かに、
 何かが響いていた。

 ◆

 数秒後。
 体育館が爆発したような大拍手に包まれた。

「ブラボー!!」
「リアルすぎる!」
「青春だーーー!!」

 観客たちはスタンディングオベーション状態。
 だが──

 当人たちは全員、顔真っ赤だった。

 弘弥は震えながら思った。

(……これ、絶対、演技じゃないだろ……)

 文化祭最大の、甘酸っぱくて、逃げ出したくなるほど眩しい瞬間。

 それは、
 間違いなく、
 本物だった。
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