同居のヒロイン達に夢精がバレる俺は、正妻戦争の中心にいるらしい件

本能寺から始める常陸之介寛浩

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【第五一五話】『トラブル発生──舞台公演、大ピンチ!』

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 夕方。
 文化祭のクライマックスを飾る学園劇の時間が迫っていた。

 体育館裏は、準備に追われる生徒たちでごった返している。
 大道具、小道具、衣装──すべてが慌ただしく運ばれていく中、弘弥たちのクラスも最終確認に追われていた。

 ──そんなときだった。

「ごめん、俺、出られない!!」

 主演予定だった男子生徒が、突如叫んだ。
 理由は、まさかの高熱によるドタキャン。

「えええええええ!?!?!?」

 クラス全員が悲鳴を上げた。

「ど、どうすんだよ!? 主役いないとか、もう無理だろ!?」

「代役!? でも、台本覚えてる奴いないって!」

「そもそも、演技練習してないし!!」

 現場は一瞬でパニックに陥った。

 そんな中──

「……弘弥くん。」
 すみれが、冷静な声で言った。

「えっ、俺!?」

「脚本、誰よりも把握してるのはあなたでしょ?」

「いや、でも、俺、表に出るのは……!」

「時間がない! 弘弥ならできるって!!」

 ルナが背中を押してきた。

「兄しかいない!!」

 碧純も目を輝かせる。

「観察対象、適任認定」
 ひよりが即断する。

「黄金の舞台、開幕前夜──」
 ことねが謎に詠い始めた。

「わ、わたくしも……! 弘弥様と共演したいですっ!」

 ミレーヌが顔を真っ赤にして手を挙げた。

「ふふ、主役の隣、わたくしが務めさせていただきますわ」
 エレノアが優雅に一礼する。

「……私も、出る。」
 紗凪も、静かに手を挙げた。

(ちょ、ちょっと待て──これ、逃げられない流れだ……!)

 必死で現実逃避を試みたが、
 次の瞬間には、衣装係に無理やり着替えさせられていた。

 ◆

 そして、本番直前。
 舞台袖。

「いいか、即興でもいい、流れだけは守れ!」
 演出係が必死で指示を出す。

「……セリフ? 適当にアドリブで繋いで!」
「表情と雰囲気でごまかせばなんとかなる!!」

(なるかああああああ!!!)

 心の中で絶叫する弘弥をよそに、舞台の幕は無情にも上がっていく。

 ◆

「──見つけたぞ、運命の人!」

 オープニング、弘弥の第一声。

 なぜか大歓声が上がった。
 体育館は満席。
 しかも観客には、ルナのファン、碧純のファンクラブ、すみれ推し、ミレーヌ応援団、エレノア支持層までごった返している。

(……終わった。)

 覚悟を決めるしかなかった。

 ◆

 最初に出てきたのはルナ。
 姫役の衣装をひらひらさせながら、元気いっぱいに叫んだ。

「運命の人ー! 私を迎えに来てくれたんだねー!」

「──もちろんだ、姫!」

 弘弥も勢いで返す。

「兄、顔引きつってる……」

 碧純が袖で呟くのが聞こえたが、無視する。

 次は、すみれ。
 賢者役で登場。

「……あなたに、知恵と勇気を授けましょう。」

 落ち着いた声に、観客が「おおぉ……」と感嘆の声を上げた。

(さすがすみれ……!)

 と思ったのも束の間。

「知恵の試練です──まずはわたくしと手を繋ぎなさい。」

 アドリブで手を差し出された。

(文化祭ジンクス、まだ引っ張るのかよ!?)

 でも、流れ上断れず、弘弥はぎゅっと手を握った。

 わあああっと沸く客席。
 胃がまた痛んだ。

 次は、ひより。
 謎の魔法使い役。

「観察対象──試練突破、確認。」
 セリフなのか素なのか分からないコメントを残し、去っていった。

(アドリブ下手すぎない!?)

 次に現れたのは、ミレーヌ。
 異国の姫君役。

「……運命の導き、わたくしに、愛をください!」

 勢いで抱きつかれ、弘弥は完全にフリーズした。

(助けて胃薬──!!)

 最後に、エレノア。
 女王役。

「運命の勇者よ、わたくしを娶る覚悟はできておりますか?」

 優雅に笑うエレノアに、弘弥は顔面蒼白で頷いた。

 そして、トリを飾るように現れたのが紗凪だった。

 彼女は、ただ、静かに近づき、
 弘弥の手を取って、囁いた。

「……信じてるよ。」

 それは、
 誰よりもシンプルで、
 誰よりも胸に響く言葉だった。

 ◆

 なんとか最後まで演じ切り、カーテンコール。

 拍手喝采。
 歓声の嵐。

 体育館が、割れんばかりに盛り上がっていた。

 弘弥は、舞台のど真ん中でぐったりと座り込んだ。

(……胃、死んだ。)

 だが、ふと顔を上げると。

 ヒロインたちが、皆、
 満面の笑顔で立っていた。

 ──即興でも、トチりながらでも。
 今日だけは、
 全員が、一つになれた気がした。

【続く】
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