同居のヒロイン達に夢精がバレる俺は、正妻戦争の中心にいるらしい件

本能寺から始める常陸之介寛浩

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『夢精監視プロジェクト発足!──“夜の青春”を科学する』

【第五七五話】 『夢の中の名前──呼んだのは誰?』

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 それは、土曜の夜だった。

 いつものように“添い寝当番”による密着観測が行われ──
 ヒロインズ全員が、「この一週間の総括戦」として、交代制ではなく全員で雑魚寝することになっていた。

 

「週末スペシャル・“川の字実験”ですね」
 ひよりがホワイトボードに記す。

 ■対象:真壁 弘弥
 ■条件:左右からヒロイン2名ずつの圧迫環境下での就寝
 ■目的:複数夢源における潜在選好傾向の可視化

 

「夢で誰を見るかが……本命ってことになるのよ」
 すみれが静かに言った。

 

「この戦、負けられない」
 ミレーヌが凛とした表情で、パジャマ姿なのに何か騎士のような覚悟を見せていた。

 

「じゃ、わたしは左腕に密着!」
 ルナが速攻で弘弥の片腕を取り──

「じゃあ右は私!」と碧純が反対側を死守。

 すみれとミレーヌは脚側ポジション。
 ひよりは頭上から見下ろす“天の観測者”ポジションを確保。

 

 そして、夜が更け──
 静かに、彼は夢の世界へと堕ちていった。

 

 ◆

 

 午前3時13分。
 弘弥が、寝返りを打ち──ぽつりと呟いた。

 

「……好きだよ……〇〇……」

 

 瞬間、空気が凍った。

 ヒロインたち全員が目を見開いたまま、音も立てずに固まった。

 

(え、今、“好きだよ”って言ったよね!?)

(誰の名前!? 今、誰の名前言った!?)

(寝言録音できてる!?)

 

「録音確認!」
 ひよりが、布団から飛び起きてレコーダーを操作。

 再生された音声には──

「……すきだよ……●●……」

 ──という、音割れ気味の声。

 

「ノイズ!!!」
 すみれが叫んだ。

 

「ちょっと! 巻き戻してもう一回! スロー再生!」

「私の名前でしょ!? “あお……”って聞こえた!」

「いや、“す……”って濁ってた!!」

「“ひよ”だったよ、“ひよ”って!」

「わたくしは、耳がいいのですの。完全に“ミレ……”でしたの!」

 

「やめてぇぇえええ!! 夢の中で告白するのやめてぇぇぇえええ!!!」
 弘弥は朝、ベッドの上で正座しながら頭を抱えていた。

 

 ◆

 

 朝食の席。
 空気が重い。いや、重すぎる。

 誰もがパンを噛む音すら慎重になっていた。

 

「ひより、昨夜の夢精データは……?」
 すみれが震える声で尋ねる。

 

「……発生:あり」
 ひよりは冷静に告げる。

「内容:夢の中で“好きだよ”と発声。対象名は不明。音声の波形では“ひ”“す”“あ”“み”の音素が混ざっている可能性あり」

 

「全員じゃんそれ!!!」
 弘弥が絶叫する。

 

「統計的に有意差が出た日は?」
 すみれが食い下がる。

 

「……累計夢精数:ひより3回、碧純2回、ルナ2回、すみれ2回、ミレーヌ1回」

 

「やっぱり……私がトップだったのね」
 ひよりがそっと微笑む。

「……統計的に、わたしが最も“脳内に残っている”」

 

「だっ、誰が夢に残ってるとか、そもそもそんなの! 本命とかじゃなくてっ!」

 弘弥が言い訳するが、遅かった。

 

「ううぅ……兄の本命は、ひよりだったんだ……」
 碧純がうるっと涙目。

 

「じゃあ夢の中でチューしたの私じゃなかったの!? 嘘でしょ!? 昨夜のあれ全部フリだった!?」
 ルナは頭を抱える。

 

「兄の裏切り者ぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
 碧純が突撃。

「反論あるならパンツ見せてから言ってよ!!」
 ルナが反撃。

 

「静まってください!! 食事中に発酵の話題は禁止としたはずですの!!!」
 ミレーヌも怒号を上げた。

 

 そしてひよりは──

「……では今夜、再測定します」

 と淡々と告げた。

 

 誰の名前を呼んだのか。

 それは、まだ分からない。

 だけど今、たしかに。

 “夢精=戦争”という図式が成立してしまった。

 

 弘弥の理性が、次に砕けるのは──いつだ。

 

【つづく】
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