同居のヒロイン達に夢精がバレる俺は、正妻戦争の中心にいるらしい件

本能寺から始める常陸之介寛浩

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『現実誘惑バトル編』

【第五八五話】 『もう無理──“触れられない”のが逆に誘惑!?』

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「今日こそ……誰にも触れない。絶対に触れない……!」

 

 朝、目を覚ました弘弥は、そう心に決めていた。

 枕元には昨夜ミレーヌによって引き起こされた**“タオル事件”の名残(=乾きかけの鼻血染み)**が残っており、それを見ただけで顔が熱くなる。

 

(もう限界……あれ以上の接触があったら……俺の心も身体も死ぬ……)

 

 弘弥は“ノータッチ宣言”を胸に誓い、制服を着て朝食の場へ降りていく。

 

「おはよう、兄!」

 碧純がトースト片手に笑顔で近づいてくるが──

「……ストップ。今日は触れない」

 

「……えっ?」

 

「今日は俺、誰とも物理的接触をしない。平和的距離の一日を貫く」

 

「兄、それ本気で言ってるの……?」

「俺は本気だ……今日の俺は孤高だ。触れなければ青春の波も来ない!」

 

「……それ、逆に青春拗らせてない?」
 ルナが呆れ顔で言った。

 

 しかし、弘弥の決意は固かった。

 すみれに近づかれても一歩後ろへ、
 ひよりに書類を手渡されそうになっても机に置かせ、
 ミレーヌの微笑みには目を合わせず、ひたすら無接触生活を貫く。

 

 ◆

 

 だが──その日、弘弥は痛感することになる。

 “人間は、触れられないと──勝手に妄想で補う”。

 

 授業中、隣の席のすみれが静かに鉛筆を走らせている。

(あれ……今日も綺麗な横顔……)

(……もし俺が今、この席を立って、ふと彼女の肩に手を添えたら──)

 

 妄想1:すみれが頬を染めて「もう……弘弥くんったら」

 

「……ダメだっ!」

 小さく叫んで机に額を打ち付ける弘弥。

 

 放課後、ロッカーで荷物を整理していた弘弥の前を、碧純が通りかかる。

 制服の袖が少し上がり、白い手首が見えた瞬間──

 

(あれ……あの手で俺の髪を撫でられたら──)

 妄想2:碧純「よしよし、今日もよく頑張ったね、お兄ちゃん」

 

「……あぁぁぁ!!」

 またもや錯乱気味に立ち上がる。

 

 そして帰宅。

「一人で過ごす」と宣言し、部屋に閉じこもった弘弥は、
 抱き枕も封印し、毛布にくるまり、天井を見上げて過ごしていた。

 

 だが──

 誰にも触れられない時間が長くなればなるほど、
 **“触れた記憶”**がどんどん美化され、
 頭の中でヒロインたちの声や表情が再生されていく。

 

「……ルナ、最近チューしたがってたな……」
「すみれの紅茶の香り……落ち着くんだよな……」
「碧純のナデナデ……あれって、反則だよな……」

 

(ダメだ……! 妄想で、存在しないスキンシップにやられてる……!)

(なんで触れてないのに、こんなに熱くなるんだ……!?)

 

 頭から布団をかぶったそのとき──

 ドアが、ノックされた。

 

「……弘弥くん」

 聞こえてきたのは、すみれの静かな声。

「触れないって、決めたのはいいけれど──」

「私たちのぬくもり、そんなに我慢しないでよ」

 

「兄、なんか顔真っ赤になってるらしいじゃん?」
「それ、むしろ危険じゃない? 熱で死ぬぞー?」

 

 次々と声が届く。

 

「お触り禁止にする方が逆に妄想捗るって、気づいてしまったのね」
 ひよりの冷静な声が、とどめのように重なる。

 

「……だったら、今夜は全員でくっついちゃおうよ」
 ルナが笑う。

 

 ドアが開き、ヒロインたちが次々と布団の中へ潜り込んでくる。

 

「だ、だめっ! 今日は触らな──」

「でも触ってないよ? 添い寝って、触れてないもん♥」

「それに、こうやって近くにいるだけで、もうドキドキでしょ?」

 

 結局──弘弥は、理性の壁を全壊させた。

 

「……青春ってさ……触れなくても……ダメなんだな……」

「……ぬくもりって、ずるい……」

 

 誰かの腕が、そっと彼の手を握った。

 そして全員で、静かに笑った。

 

【つづく】
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