同居のヒロイン達に夢精がバレる俺は、正妻戦争の中心にいるらしい件

本能寺から始める常陸之介寛浩

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【帰宅後のドタバタラブコメ編】

【第五九七話】『風呂・トイレ・食卓──すべて戦場』

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「……俺は、戦場に住んでいるのか?」

 そんな言葉が、朝の歯磨き中の鏡越しに口をついて出た。

 スパリゾートハワイアンズから帰ってきたばかりだというのに、日常はすでに非日常の中にあった。

 ヒロインたちは全員、なぜか帰らず真壁家に滞在を続けている。

 そして今日、真壁弘弥が目の当たりにしたのは──恋の戦場が、風呂、トイレ、食卓という「生活の基盤」にまで及んでいる現実だった。

 朝。最初の戦場、それは──風呂場。

 弘弥が寝ぼけ眼でタオルを片手に脱衣所に向かったその時。

「ちょ、待って兄!」

 ちょうど碧純がバスタオル姿で飛び出してきた。

「あ、あの……まだ入ってるってば!」

「ご、ごめん!! ていうかお前、なんでタオル一枚!?」

「これが女子の戦場衣装なのっ!!」

 目のやり場に困って顔を背けると、今度はすれ違いざまにルナがタオルを巻いたまま飛び込んできた。

「よっしゃ! 先入りターイム!」

「ちょ、待てルナ、俺が──」

「えっ、弘弥? 一緒に入る? 入らない? どっち?」

「入らないわッ!!」

 叫びながら廊下に引き返す。だがその途中で、

「弘弥くん、シャンプーが切れてたから補充しておきましたよ」

 しれっと言いながらすみれが洗面所から出てきた。

「え、ええと……そのタンクトップ、濡れてる……」

「シャワーだけだったから……ちょっとだけ。ちゃんと“下”は着てますから」

「着てるの定義が揺らぐからやめてください!!」

 そして昼前。

 戦火は、トイレへと移る。

「んー……そろそろ出そう……」

 そろそろ行っておくか、とトイレに近づく。

 ノック。

 しようとした、その瞬間。

 ガチャ──。

 ドアが開いた。

「ふんふーん♪ あ、やっべノック忘れた──」

 ルナだった。

「ぎゃあああああああああああああ!!!」

「ひゃああああああああああああああああああ!!!」

 弘弥はとっさに目を背けた。

 ……けど、一瞬だけ見えた。ピンクの、ふわっとした……。

「ルナァァァァァァアアア!!!!!!」

「ご、ごめんんんんんん!!! ノック忘れたああああ!!」

「てかなんで開ける前に歌ってんの!!」

「リズムで行動するタイプなんだよ私は!!」

 午後。

 ようやく平穏を取り戻したと思った弘弥の胃袋を襲ったのは、恋人メシの乱れ打ちだった。

「はい兄、私の手作り卵焼き♥ “昔の味”にしてみたよ」

「私は、ミネストローネです。さっぱりしたお味で、消化にも良いと思います」

「弘弥、おかずは甘い系と塩系、どっちが好き?」

「デザート担当は私がもらいます。スフレ、焼いておきました」

「……あの、スパイス効かせすぎて地雷原みたいな味になったけど、食べますか?」

 順番に差し出される“本気の味”と“実験的な味”のコンボに、弘弥の箸は震えた。

「ま、待ってくれ……これはもう、胃袋への一斉攻撃だ……!」

 しかも、全員が“恋人味”を意識して作っているという点が厄介だった。

「食べてくれなきゃ……私、泣いちゃうかも」

「私のスープだけ残ってたら……悲しいです」

「うぉい、兄! なに“お姉ちゃんの卵焼き”残してんの!」

 食卓が、涙腺と胃袋を交互に攻め立てる戦場と化していた。

 弘弥はというと──

「俺、いったい何人の恋人と同時交際してることになってんだ……」

 と半泣きになりながら、全皿を完食した。

 その日の夜。

 弘弥はソファに倒れ込んだまま動けずにいた。

「……こりゃもう、戦争だ」

 恋の、青春の、日常の顔をした戦争。

 あまりにも甘くて、苦くて、幸せすぎて……それが一番恐ろしい。

「明日こそ……明日こそ平和に暮らす……!」

 そう誓った彼の背後に、またもヒロインの足音が迫る。

「弘弥ぁ~♥ 明日のお弁当も、私が作っていい?」

 ──恋の戦場に終わりはなかった。
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