同居のヒロイン達に夢精がバレる俺は、正妻戦争の中心にいるらしい件

本能寺から始める常陸之介寛浩

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【帰宅後のドタバタラブコメ編】

【第五九六話】『恋のスイッチ、入りっぱなし』

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「この家、こんなに狭かったっけ……?」

 帰宅して三分。真壁弘弥は、自室のドアの前で自問していた。

 いや、物理的な広さは変わらない。けれど、リビングも寝室も──なぜかヒロインたちが占拠しているのだ。

「ちょっと、弘弥。これ、あなたのスーツケースでしょ? 通路に放置しないでくれる?」

「お兄ちゃん、こっちのタオルは洗濯しといたからね~♥」

「部屋の掃除、任せてって言ったのは私だから!」

「私は夕飯作るわよ。ちょうど、あの納豆も熟成が進んでるし──」

「やめてくれ、すみれ……それ、もう青春じゃなくて粘菌の類だ……」

 誰一人、帰る気配はない。

 スパリゾートハワイアンズの旅が終わり、駅に着いた瞬間までは──確かに「楽しい旅行だったね!」で終わるはずだった。

 しかし家の玄関を開けた瞬間、全員がほぼ同時に「とりあえず落ち着くまでここにいさせて」と言い出し、そのまま荷物を玄関にドサリ。

 一歩も動かず、「じゃあお風呂先にいい?」「布団はどこに敷くの?」と自然すぎる流れで居座ってしまった。

 弘弥は、己の意志の弱さと女子の団結力の前に屈していた。

 そして──夜。

 彼の部屋の中では、“第二次・恋愛攻防戦”が始まろうとしていた。

「で──手を繋いだのは、やっぱり私だよね? 弘弥」

 最初に切り出したのは、碧純だった。

 膝の上にクッションを抱え、ちょっとだけ膨れっ面。けれど視線はじっと彼の目を見据えている。

「あの夜の帰り道……自然と、手が伸びたでしょ?」

「いや、それって──たしか私だったと思うんだけど?」

 横から割って入ったのは、白神ルナ。水着事件でも何かと騒がしかったギャルヒロインが、妙に真剣な顔をしている。

「うそぉ!? ルナちゃん、そのときことねちゃんとしゃべってたじゃん!」

「え、それなら私……わたしじゃないの?」

 すみれが控えめに手を挙げた。けれど、少し頬を赤らめて俯いているその姿は、確かに“記憶の中の温もり”に近い気もする……。

「データで証明しましょう」

 その静かな一言で、全員の視線が一ノ瀬ひよりに集中した。

「私は弘弥くんの左側にいた。心拍数は他の時より平均で8bpm上昇。手の温度も約2.7度上昇してたの、覚えてる?」

「ひよりちゃん……なんでそんなデータ取ってるの……?」

「観察は青春の基本ですから」

「やばいよこの子──本当に夢精監視から進化してる!!」

「……ちなみに私は、弘弥さんの小指に指を絡めておりましたの」

 満を持して、異国のお姫様・ミレーヌも参加。

 各々が「手を繋いだ記憶」「触れた指の感覚」「弘弥の反応」「その後の空気感」など、ありとあらゆるデータと主観を並べ始める。

 ──まさに、恋愛の記憶バトルロワイヤル。

「ちょっ……落ち着いて! 記憶がごちゃごちゃになってきた!」

 弘弥は頭を抱えた。いや、違う。抱えさせられた、というべきか。

「全部があたたかくて……全部が、嬉しかったんだ」

 本音が、つい漏れてしまう。

 ヒロインたちはしばし沈黙した。

 けれど。

「……だったら、もっと“特別”にしてあげる」

 碧純が宣言し、ルナが「私のほうが刺激的だし!」と続く。

 すみれは優しい微笑みで「その中でも、最も穏やかな幸福を与えられるのは、私です」と静かに断言し──

「じゃあ今夜、再現実験しましょう」とひより。

「ふふふ、わたくしも、“お姫様の手”がどれほど優雅か、再び証明いたしますわ」とミレーヌ。

 もうダメだ──弘弥の理性がもたない。

「青春スイッチ、入りっぱなし」なんてレベルじゃない。

 押しっぱなしで壊れている。

 そして──その夜。

 リビングに布団を敷いて雑魚寝することになった弘弥は、両手に美少女、両脇に温もり、足元にも“うっかり枕”が入り込み……

「これは夢か現実か……」

 目を閉じても、眠れなかった。

 でも。

 きっと、どちらでもよかった。

 なぜなら、この日常こそが──

 “青春そのもの”なのだから。

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