同居のヒロイン達に夢精がバレる俺は、正妻戦争の中心にいるらしい件

本能寺から始める常陸之介寛浩

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【帰宅後のドタバタラブコメ編】

【第五九五話】

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『ただいま、でも平穏は帰らない』

「……ふう。やっと、帰ってきた……」

 玄関に腰を下ろした真壁弘弥は、スーツケースの取っ手を握ったまま、旅の疲れを噛み締めるように息を吐いた。

 心なしか、背中にまだプールの浮き輪の跡が残っている気がする。常夏のリゾート──スパリゾートハワイアンズ。笑って、走って、滑って、転んで、そして……ドキドキしっぱなしの合宿旅行。

 けれど。

「はい、ただいま。……で、部屋、こっちよね?」

「お兄ちゃん、私、今日も一緒に寝るからね。旅行ロスってやつ? ケアしてあげなきゃ……!」

「落ち着いてください、まずはスーツケースを……あっ、誰よりも先に部屋に入っているのは誰ですの!?」

「んふふふふ~、じゃあ今日も“おやすみギャルモード”いくねぇ~♥」

「みんな、部屋の中に荷物を勝手に……!? ちょ、誰も玄関で止まらないの!?」

 立ち上がった弘弥の背後で、ぞろぞろとヒロインたちが家の中へとなだれ込む。その様子はまるで、文化祭後の打ち上げ第二会場に迷い込んだバンドメンバーのように、気怠さと高揚を携えていた。

 碧純、すみれ、ルナ、ひより、ミレーヌ、ことね、さらには編集者の美月まで──なぜか全員が“当然のように”自宅に戻ってきて、なぜか居座る前提で靴を脱いでいる。

「なぁ……誰か説明してくれ。なんで“帰ってきたのに日常が戻らない”んだ……?」

 弘弥はそう呟いたが、誰も聞いていなかった。

「なぁ、碧純。今日くらいは……ちょっと、一人の時間をだな」

「うん、じゃあ“ひとりで寂しくならないように”私、そばにいるね♪」

「いや、そうじゃなくてだな……!」

「お兄ちゃん、今日ね、わたしのぬか漬けの新バージョンができたの。布団に敷いたら、きっと寝心地良くなるよ?」

「布団に!? 漬けるな! 睡眠と発酵を混同するな!!」

 碧純の“ぬか漬けケア”発言に頭を抱えていると、すみれがそっと部屋の隅から声をかけてきた。

「弘弥くん、今日から一週間分の“帰宅後リハビリ・読書メニュー”を作っておいたの。こっちは青春ラブコメ特集、こっちは純文学。どっちから読む?」

「そもそも俺は、“読書強制合宿”なんて頼んでないんだが……」

「大丈夫。君の精神の安定は、私たちが守るから──ね?」

 すみれが穏やかな笑みを浮かべて言う。まるで“囲い込み型ヒロインプログラム”の完成形のようだった。

 ルナは、もうすでにジャージ姿で弘弥のベッドにダイブしていた。

「うわー、やっぱ実家の布団はちげぇなー! で、弘弥もこっち来るよね? 今夜も“合法添い寝”だよね?」

「ルナ、それ合法じゃねえからな!?」

「じゃあ、“合法な気がするノリ”で許して?」

「言葉遊びで押し通すなあああ!!」

 ドタバタの空気にひよりが冷静な一言を挟む。

「この部屋の温度、上昇率異常。青春濃度、最大濃度に達しつつある──」

「そんなデータ、要らないから……っ!」

 ミレーヌは、スーツケースの中からなぜか「全身パジャマ型抱き枕」を取り出していた。

「わたくし、今日からしばらく“日本式抱かれ寝文化”を研究しますの」

「そんな文化、ない! ねえ、ないよね!? みんなで否定して!!」

 しかしヒロインたちは誰ひとり否定せず、逆に――

「ありじゃない? “わたしが一番しっくりくる抱き枕”選手権とかさ」

「うち、すでに“夢精観測バトル”やったばかりなんだけど……次は現実編?」

「現実は、夢の延長線上だってね」

「延長どころか、もう夢と現実の区別が……うわああああ!!」

 弘弥は崩れ落ちた。

 そんなこんなで、ようやく夜が訪れた。

 リビングには、全員分の寝袋やら布団やらが敷き詰められ、まるで修学旅行の大部屋状態。誰がどこで寝るかを決めるじゃんけん大会まで発生しており、弘弥の理性はさらに削られていった。

「青春って、帰宅しても終わらないものなんだな……」

 枕を抱いてうつ伏せになった弘弥が、遠い目で呟く。

 そのとき、碧純がふと隣に座り、小さな声で言った。

「うん……でも、帰ってきた場所が“誰かのそば”なら、青春はもっと続いていくんだと思うよ?」

 弘弥は顔を上げて、彼女の笑顔を見る。

 確かに今、この瞬間だけは。

「……帰ってきて、よかったな」

 弘弥は静かに、そう呟いた。

 その直後──

「じゃあ明日も青春するよー!!」「お兄ちゃん、おにぎりリクエストある?」「ちょっと、朝の“制服直しバトル”の予約は先着順だからね!!」

 カオスな日常が再開した。

 青春は、まだまだ終わらない。
 ……むしろ、始まったばかりだ。

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