同居のヒロイン達に夢精がバレる俺は、正妻戦争の中心にいるらしい件

本能寺から始める常陸之介寛浩

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『ハワイアンズ旅行編』

【第五九四話】『常夏の思い出、青春の予感』

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 チェックアウトの時間は、思った以上に早くやってくる。
 館内アナウンスが「まもなくご出発の準備を」と優しく告げるたびに、弘弥の胸の奥が、ぎゅっと締めつけられるような感覚を覚えていた。

「……もう、帰るんだな」

 ロビーに集まるヒロインたち。
 荷物を抱え、サングラスをかけたルナが「また来たいよね~」と伸びをして笑えば、すみれが「静かにして。みんなの迷惑になるわ」と淡くたしなめる。
 ミレーヌはお土産袋を抱えてよろめき、「この国の土産文化、貪欲すぎますの!」とぶつぶつ。
 ひよりは、チェックアウトの手続き中の受付嬢に「宿泊満足度アンケート」の提出を勧めていた。
 碧純は弘弥の隣にぴたりとくっつき、さりげなくキャリーケースを引いてくれている。

 ──まるで、一つの家族のようだった。

 ふと、弘弥は足を止めて、館内に飾られた記念写真ボードを見上げた。
 昨日のフラショーで撮影された集合写真が、大きく印刷されて展示されている。

 そこには、ぎこちなくも確かに肩を寄せ合う、自分たちの姿があった。

「あの夜……」

 誰かの手を握った瞬間の、あの柔らかさを弘弥は思い出す。
 それが誰だったのか、結局、確証は持てなかった。

 だが、それでも構わない。

 あの瞬間、確かに“誰か”とつながっていた。
 それが、弘弥にとって何よりも大切だった。

「お兄ちゃん」

「……ん?」

 碧純が、小さな声で呼びかける。
 彼女は、旅館の売店で買ったキーホルダーを、そっと手渡してきた。

「おそろいにしようって……。みんなで決めたんだよ。旅の記念に」

「……!」

 受け取ったのは、温泉饅頭の形をしたストラップ。
 だがよく見ると、一人ひとりがそれぞれの“担当カラー”でリボンを結び付けている。
 碧純は赤、すみれは紫、ルナは青、ひよりは白、ミレーヌは金。
 そして、弘弥のものには、すべての色が一緒に巻きつけられていた。

「お前ら……!」

 言葉が詰まる。
 そんなとき、すみれがそっと笑った。

「あなた、また感動して泣きそうなんじゃない? だめよ、ここで泣いたら、台無しだもの」

「う、うるさいな……!」

 照れ隠しに頭をかく弘弥。
 だがその姿を見て、ヒロインたちもくすっと笑った。

「じゃあ、最後に記念写真、撮ろうか!」

 ルナがスマホを取り出し、自撮り棒を伸ばす。
 全員で並び、無理やり弘弥を中心にぎゅうぎゅうに押し込んで──

「ハイチーズ!」

 カシャ。

 シャッター音とともに、全員の笑顔が切り取られた。
 常夏の陽射しの下、最高の表情で。

 ──バスの出発を告げるアナウンスが響く。

「そろそろだな……」

 弘弥がキャリーを引き始めると、自然と全員が彼の周囲を囲む。
 まるで、彼が“中心”であることを当然のように、疑わないかのように。

 バスの階段に足をかける直前、弘弥は最後にもう一度だけ、宿を振り返った。

 青空。流れる雲。プールのざわめき。
 フラショーの炎と音楽。温泉の湯気と、あの夜の柔らかな手。

 全部──全部、忘れない。

「俺、きっと……この夏を、忘れない」

 静かに呟いたその言葉に、後ろから重なる声があった。

「忘れさせないから♥」

「絶対に、だよ」

「わたくしの青春ですもの!」

「記録として、永遠に保存済み」

「兄が忘れたら、無限に思い出させてやる……!」

 全員の声が重なって、笑顔と共にバスに乗り込む。

 エンジンが唸り、バスがゆっくりと走り出す。

 ──窓の外に、南国の空と、眩しい太陽。

 弘弥は、目を細めて小さく呟いた。

「……青春、また一ページ、書けたな」

 ──そして物語は、新たな章へ。
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