同居のヒロイン達に夢精がバレる俺は、正妻戦争の中心にいるらしい件

本能寺から始める常陸之介寛浩

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『文化祭準備編──青春爆走、正妻戦争リターンズ!』

【第六〇五話】 『衣装係 vs 調理係──恋の主導権争奪戦』

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 文化祭まで残すところ、わずか十日──。

 教室内には、裁縫セットと調理器具が乱立し、まるで戦場のような混沌が広がっていた。

「弘弥くん、ちょっと、こっちに来てもらえる?」

「兄、お腹空いてない? さっき試作したクッキーあるけど、味見してくれない?」

「ちょっと! 衣装係が優先でしょ! モデルになってもらわなきゃ!」

「味覚も立派なモデルなのよ!!」

「この国家では、味見係は外交使節よりも重責ですの」

「いや、どんな国だよ……」

 真壁弘弥は、頭を抱えていた。文化祭準備とは、もっとこう……爽やかな汗とか、達成感とか、そういう青春っぽいものだとばかり思っていた。だが、現実は違った。

「弘弥は私たちのもの!」という無言の圧力が、各部署から吹き荒れている。

 裁縫針とフライ返しが飛び交い、両サイドから呼び止められ、もはや休む暇すらない。

「弘弥っ! 袖口のサイズ、測らせて!」

「ほら、食べて! このカレー味プリンどうかな!」

「誰がカレー味プリンなんか作るかっ!」

「わ、私だけど……?」

「自白が早い!」

 弘弥は泣きたくなった。けれど、誰一人悪意など持っていないのだ。全員が、真剣に「好きな人に喜んでほしい」だけ。その思いが、過剰にラブコメを刺激していた。

「弘弥さま、次は足元の丈の確認をさせていただきますね」

「ひゃあっ!? 足元!?」

「私、靴を脱がせる係やる!」

「待て、どこにそんな係が……あった、今できた!!」

 いつの間にか、弘弥は簡易フィッティングルーム(理科室のついたて)に引きずり込まれていた。

 そこには、すみれ・ルナ・エレノアが仁王立ちしていた。

「モデルとしての覚悟、見せてもらうからね」

「……逃げようとしたら、縫いつけるから」

「うふふ、弘弥様の寸法……隅々まで記録しますわ」

 三者三様、笑顔が怖すぎる。

 その頃、家庭科室では。

「……なにそれ、エプロン逆に着けてるし」

「逆!? っていうか、それで料理する気!?」

「いいじゃん、どうせ弘弥くんは見た目しか見てないしー」

「それを言うなら、お姉ちゃん風って無理ありすぎよ、碧純!」

 調理チームも、絶賛混沌中であった。

 碧純・ひより・ミレーヌの三人が、恋と胃袋を武器に「弘弥胃袋制圧計画」を推し進めていた。

「さ、弘弥。これが“恋人風”オムライスね」

「……またか、ひより。昨日もオムライス食べたぞ」

「今日は味付けが“夜の恋”だから」

「な、なんだその味は!?」

「ミレーヌ特製、“お姉さまに叱られたいスープ”もあるですのよ?」

「怖いよミレーヌ、そのネーミングは絶対やめて!」

 気がつけば、弘弥は“食べさせられ隊”と“着替えさせ隊”の間を、エンドレスで往復していた。

 おまけに、どの料理も一癖も二癖もあり、胃腸薬の減りも著しい。

「弘弥、今日はカロリー3倍だからな。がんばれよ」

「……誰だその応援。誰得なんだそのカロリー」

 教室の片隅で、唯一冷静だったのはことねだった。

 彼女はただひたすら、自作のVTuber衣装に没頭しながら、ニヤニヤと騒動を見つめていた。

「いやー、恋ってすごいね。人をここまで暴走させるんだもん」

「お前は他人事か!」

「うん。でも、弘弥くんの目が充血してるの見たら、ちょっとドキドキしちゃった」

「するな! 戦慄しろ!」

 そして夕方。全員の体力が尽きたころ。

 ようやく弘弥は、教室の隅に座ることを許された。

「……今日は、準備、どこまで進んだんだっけ?」

「え、私、衣装……一着も完成してない」

「調理試作……全滅……」

「胃袋の被害者……一名ですの……」

「私の精神……瀕死……」

 準備は、まったく進んでいなかった。

 だが──

「でも、楽しかったよな」

「うん」

「そ、それは否定できない……」

「弘弥くんと一緒なら……準備もご褒美、だしね」

 その言葉に、弘弥は顔を真っ赤にしながら、心の中でつぶやいた。

(これが青春か……準備って、戦場だな……)

 そして──

 戦場は、次なる火種を抱えていた。

 そう、“全ヒロインが文化祭当日の『告白タイミング』を狙いはじめていた”ことなど、

 このときの弘弥は、まだ知る由もなかった。

 ──つづく。
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