同居のヒロイン達に夢精がバレる俺は、正妻戦争の中心にいるらしい件

『文化祭準備編──青春爆走、正妻戦争リターンズ！』

【第六〇八話】 『一致団結──恋も青春も、文化祭に賭ける！』

　翌朝。朝の教室には、不思議な静けさが漂っていた。

　いつもなら、碧純の声でにぎやかに始まる一日。ルナの「今日の運勢は！？」が響き渡り、ひよりがノートを広げ、すみれが黒板前で穏やかな指示を出し、ミレーヌが「ですの！」で場をかき乱すはずだった。

　だが今朝は、誰もが口を開かず、自分の机に座っていた。

「……」

　弘弥も、教室の一番後ろの窓際の席に座り、外の景色を見つめていた。

　空は、文化祭に向けて晴れるかのように、蒼く澄んでいた。

　

　そのとき。

　ガタン、と椅子を引く音が一つ。続いて、コツ、コツ、と前に出る足音。

　教室前に立ったのは、すみれだった。

　

「……昨日のことで、話したいことがあります」

　しっかりした声で、そう言った。

「私たち……弘弥くんのことで浮かれて、周囲が見えなくなっていました」

「でも、文化祭って、クラスで一緒に何かを作る行事です。本来、みんなで力を合わせてやるべきもので……その輪を乱してしまったこと、本当に、申し訳ありませんでした」

　

　教室がしん……と静まり返る。

　すみれは深く、深く頭を下げた。

　

「すみれ……」弘弥が小さく声を漏らす。

　

　だが、その直後。

「わたしも……ごめんなさい」碧純が立ち上がる。

「アタシも、ノリすぎた。ホントごめん」ルナも帽子を取って頭を下げた。

「配信……しばらくやめるです。裏方に回ります」ことねは珍しく素直に言った。

　

「ま、待て待て、これは何だ？ 全員土下座タイムなのか？」

　クラスメイトの一人が慌てて声を上げた。

「や……やりすぎたのは事実だけどさ、なんか真剣に謝られるとこっちが申し訳ないっていうか……」

「そ、そうだよな。まあ、ぶっちゃけ面白かったし」

「配信見たうちの妹が“弘弥ファンになる！”って騒いでたしな……」

　

　ちょっとした笑いが起こり、教室の空気が和らいでいく。

　

　そこへ、弘弥が立ち上がる。

「……みんな、ごめん。俺が、もっとちゃんと進行できてたら良かった」

「でも……本気で思ってるんだ。この文化祭、みんなで最高のものにしたいって」

「恋とか、好きとか、そういう気持ちも、たしかにごちゃまぜになったけど……それも青春の一部なんだと思う。俺は、それも全部受け止めたい」

「だから、もう一回だけ──一緒に作らせてほしい。最高の文化祭を」

　

　その言葉に、教室中の拍手が自然と起きた。

　

　◆

　放課後──。

「というわけで、再編成会議、始めます！！」

　すみれの掛け声とともに、チームの見直しが始まった。

　今度は、弘弥の負担を分散することが最大のテーマ。

　ことねが自ら「配信班兼記録係」として裏方に回り、

　すみれとミレーヌが衣装班のリーダーを務め、碧純とひよりは調理チームを指揮する形に。

　ルナは、全体進行の“副補佐”として、弘弥のサポート役に回った。

　

「……いいんですの？ 主役ポジションじゃなくて」

「主役は、弘弥でしょ？」ルナがにっこり笑った。

　

　そして──ことね。

　一人、配信の機材を整理しながら、ふと画面に映る弘弥の写真を見て、ぽつりとつぶやいた。

　

「好きって、表に出すだけが全てじゃない。
　……影から支えるのも、立派な愛でしょ」

　

　そんなことねを、すみれが遠くから見つめていた。

　そして、弘弥はそれに気づかず、再び準備に奔走する。

「青春って……忙しいなぁ……」

　

　それでも、心は少し軽かった。

　

　みんなが、ちゃんと“文化祭”を見つめている。

　それだけで、今は十分だった。