同居のヒロイン達に夢精がバレる俺は、正妻戦争の中心にいるらしい件

本能寺から始める常陸之介寛浩

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『妄想文学バトル編──ヒロインたちが“理想の恋”を書き始めた件』

【第六一七話】 『恋の書き出しは、誰のもの?』

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「明日のホームルームで、“創作発表会”やるぞ! テーマは──理想の恋愛だ!」

 

 担任・東条のその一言が、教室の空気を凍りつかせたのは、火曜の昼下がりだった。

 

 文化祭も終盤、なんとなく開放的な空気に包まれていたクラスに、突如として投下された爆弾。しかも、テーマが“恋愛”。

 

「えっ……なにそれ、マジで?」

「っていうか、創作って……小説とか?」

「理想の恋愛……って、どこまで書いていいんだろう……?」

 

 生徒たちのざわめきが次第に膨れ上がる中、東条は腕を組み、どこか楽しそうにニヤリと笑った。

 

「クラス内で創作といえば、真壁。おまえには“審査委員長”を頼むぞ」

 

「は……?」

 

 まさかの人選に、真壁弘弥はお茶を盛大に噴き出した。

 

「え、いや、なんで俺なんですか!? いや、たしかに書いてますけどっ!」

 

「たしかに、じゃない。おまえ、書いてるのラノベだけど、“青春純文学賞”受賞してんだろうが。ほら、この前の“きみと、ぬか床と、永遠と。”だっけ? あれすげー評判だったじゃん」

 

「そ、それは……はい、ありがたいことに……」

 

 苦笑いしながらも、弘弥の胃に不穏な重みが広がっていくのを感じていた。

 

(最悪だ……“恋愛”をテーマに創作とか、絶対ろくなことにならない)

 

 案の定だった。

 

 ホームルーム終了のチャイムが鳴り響くよりも早く──

 

「つまり、これは……“私と弘弥の理想の恋”を、書けってことよね?」

 

 ルナの声が、戦闘モードのスイッチを入れた。

 

「は? 何言ってるの。兄は私のために読むべきでしょ」

 碧純が椅子をガタッと立てる。

 

「ええ……つまり、わたくしたちの“恋心”が、物語として評価されるということですわね。これは文学的革命ですの……!」

 ミレーヌの瞳が異様に輝いている。

 

「“弘弥くんがどう感じたか”が、最終評価基準──これは、現代の愛の裁判」

 すみれが眼鏡を外して呟いた。

 

「実際の恋愛を再現するシミュレーションロジックとして、非常に興味深いですね」

 ひよりはすでにペンを持ち、“恋愛の相関図”を書き始めていた。

 

「よーし、推し活だよぉ!」

 なぜかテンションが一段と高いことねは、すでに“VTuber視点からの恋愛論”を草稿にしている。

 

 ──つまり、だ。

 

 弘弥は文化祭のクライマックスで、**“誰の物語が心を打つか”**という、新たな戦場の真っただ中に投げ込まれてしまったのだった。

 

 ***

 

 翌日、創作発表会の時間。教室の後ろには、なぜか担任が用意した“発表者スペース”が設けられていた。

 

「それじゃあ、トップバッターは……真壁碧純!」

 

「えっ!? 先手なの!?」

 

 一拍遅れて立ち上がった碧純は、それでも堂々と原稿用紙を手に前に出た。

 

「タイトルは──『お兄ちゃんと、ひとつ屋根の下で』」

 

 瞬間、弘弥の背筋に電流が走る。

 

(もうタイトルから実話じゃねーか!!!)

 

 碧純の作品は、“幼い頃からずっと好きだった兄との同居生活を経て、ある日勇気を出して気持ちを伝える”という内容だった。

 

「……私は、兄に迷惑をかけたくない。でも……ちゃんと女の子として、見てほしい──」

 

 その一言に、教室がしん……と静まる。

 

 弘弥は赤面しながらも、心の奥に波紋のような温かさが広がっていくのを感じていた。

 

 次に立ったのは、すみれ。

 

「タイトルは──『あなたと書く、未来』」

 

 それは、“クラスメイトでありながら、作品と作品で心を通わせるふたりの創作ラブ”だった。

 

「……あなたが紡ぐ言葉に、私の想いを乗せて。未来のページを、一緒に開きたい」

 

 静かに、でも力強く語られるそのセリフは、まるで朗読劇のように弘弥の心を揺さぶる。

 

(……ずるいよ、すみれ。そんな言い方、されたら)

 

 ルナは明るく元気なノリで、“文化祭後夜祭での告白”を描いた一篇を披露し、

 ひよりは統計と心情描写の融合した“データロマンス”という新ジャンルを打ち立てた。

 

 ミレーヌは“祖国では許されぬ恋”というテーマで涙ながらに、

 ことねは“配信と現実の狭間で揺れる推し恋愛”を全力でプレゼンした。

 

 そして、気がつけば──

 弘弥の前に、小さな机の上に積まれた“ヒロインたちの恋物語”の束があった。

 

(どうすればいいんだ。誰の物語が、一番なんて……決められるわけがない)

 

 “審査委員長”という立場で、“一人を選ばなければならない”。

 だがその先にあるのは、明確な“誰かを選ばなかった”という現実。

 

 弘弥の手が、小さく震えた。

 

 彼が知らないところで、ヒロインたちの胸にも、静かに緊張が広がっていた。

 

 ──これは、単なる創作の話じゃない。
 “自分が選ばれるかどうか”の物語。

 

 だからこそ、彼女たちは本気だった。

 そして、弘弥もまた──選ぶ覚悟を、しなければならなかった。

 

(“恋の書き出し”を、誰に任せるのか)

 

 青春は、いま、ページをめくろうとしていた。
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みんなの感想(1件)

月影 流詩亜(旧 るしあん)

50過ぎの茨城県民だけど、私もドクターペッパーは飲んだことがありません (苦笑)
そして私もマッ缶派です。

解除

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