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第2章 『清洲の乱舞──わし、モテ期来たかもしれん』
第十六話『モテ期、ついに来た!?』
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清洲城の朝は、何事もなかったように静かに始まる。
けれども、昨日の“女装茶会”以来、城内の空気はどこか妙だった。
──女中たちが、ちらちらと日吉丸を見ては笑い、そわそわしている。
──小姓仲間も、なぜか話しかけるたびに頬を染めたり、目を逸らしたりしてくる。
そんな異変に、日吉丸はまったく気づいていなかった。
「はぁ~、きのうのあれ……ほんま黒歴史やて……。日吉姫て、なんやねん、もう……」
額に手をあて、うなだれながら廊下を歩いていたそのとき──
「日吉丸さまっ!」
ふわりと走り寄ってきたのは、おしのだった。
「な、なんや、どしたんやおしの?」
「その……あの、お顔の紅……とても似合ってました」
「え、ええ!? いやいやいや、わしは男やて、男! 化粧とか似合ってどうすんのや!」
おしのは、くすっと笑って、両手で小さな布包みを差し出した。
「これ、お弁当です。今朝、こしらえて……よかったら召し上がってください」
「え、あ、ありがとう……って、これってもしかして、手作り弁当てやつやないか!? 恋する女子がようやるやつや!」
「べ、別に、そんな……深い意味は……」
顔を赤らめて走り去るおしの。
「……え、これ、もしかして……モテ期ってやつ?」
動揺して廊下を歩いていたら、今度は台所のほうから別の女中が呼び止めた。
「あの、日吉丸さま……」
「は、はいっ?」
「よければ、今度……わたくしの味噌汁、お飲みになりますか……?」
「え、えええ!? それって“嫁入り前の味噌汁”的な意味!? わし、プロポーズされたんか!?」
動揺の嵐は止まらなかった。
その日、女中だけで三人、小姓の娘ふたり、さらには信長の奥向きに仕える腰元のひとりまでもが、日吉丸に近づいてくる。
「こ、こないに女の子らが……どうなっとるんやて……!!」
夕刻。
庭先で草履を干していた日吉丸のもとへ、ひとりの男がふらりと現れた。
「……ようやっとるな、日吉姫」
「信長さま! 姫はやめてくれや~~!!」
信長は、どこか愉快そうな顔で続ける。
「それにしても……女中どもが騒がしくなった。おまえ、いつのまに“女たらし”になったんじゃ?」
「ちゃいますて! わしはただ、草履と掃除と弁当食ってるだけで……!」
「それが一番効くんじゃろな。世の女子は、まじめな男に弱い。……ふむ、見込みがある」
「なにが“ふむ”や! わし、恋愛するために城勤めしとるんちゃうがね!」
信長は、鼻で笑った。
「まあよい。女子にモテるのは、兵にも信頼される資質じゃ。悪いことではない。……が」
そこで信長は、ぐっと日吉丸を見据えた。
「女に溺れるなよ。天下を取ると言ったのは、おまえ自身じゃ」
その言葉に、日吉丸ははっとした。
(……そうや。わしは……天下を取る男やて、自分で言うたんや)
「はいっ、信長さま!」
「よし。では明日から、女装稽古じゃな」
「そこ戻るんかーい!!」
どっと崩れる日吉丸。
その横で、利家が壁際からひょこっと顔を出した。
「……おまえ、ほんまにモテとるな」
「おまえも見とったんか!?」
「女中が三人おまえに弁当渡しとるの、全部カウントしとった」
「やめてくれぇぇぇぇぇっ!!」
その夜──
寝所の薄暗がりのなか、日吉丸はぼんやり天井を見つめていた。
(……モテるっちゅうのも、大変なことなんやな……)
そして、ふと頭をよぎる。
──おしのの柔らかい笑顔。
──ねねの怒った顔。
──信長の笑み。
(……わし、どこへ向かっとるんやろ……)
その答えは、まだ誰にも分からなかった。
けれども、昨日の“女装茶会”以来、城内の空気はどこか妙だった。
──女中たちが、ちらちらと日吉丸を見ては笑い、そわそわしている。
──小姓仲間も、なぜか話しかけるたびに頬を染めたり、目を逸らしたりしてくる。
そんな異変に、日吉丸はまったく気づいていなかった。
「はぁ~、きのうのあれ……ほんま黒歴史やて……。日吉姫て、なんやねん、もう……」
額に手をあて、うなだれながら廊下を歩いていたそのとき──
「日吉丸さまっ!」
ふわりと走り寄ってきたのは、おしのだった。
「な、なんや、どしたんやおしの?」
「その……あの、お顔の紅……とても似合ってました」
「え、ええ!? いやいやいや、わしは男やて、男! 化粧とか似合ってどうすんのや!」
おしのは、くすっと笑って、両手で小さな布包みを差し出した。
「これ、お弁当です。今朝、こしらえて……よかったら召し上がってください」
「え、あ、ありがとう……って、これってもしかして、手作り弁当てやつやないか!? 恋する女子がようやるやつや!」
「べ、別に、そんな……深い意味は……」
顔を赤らめて走り去るおしの。
「……え、これ、もしかして……モテ期ってやつ?」
動揺して廊下を歩いていたら、今度は台所のほうから別の女中が呼び止めた。
「あの、日吉丸さま……」
「は、はいっ?」
「よければ、今度……わたくしの味噌汁、お飲みになりますか……?」
「え、えええ!? それって“嫁入り前の味噌汁”的な意味!? わし、プロポーズされたんか!?」
動揺の嵐は止まらなかった。
その日、女中だけで三人、小姓の娘ふたり、さらには信長の奥向きに仕える腰元のひとりまでもが、日吉丸に近づいてくる。
「こ、こないに女の子らが……どうなっとるんやて……!!」
夕刻。
庭先で草履を干していた日吉丸のもとへ、ひとりの男がふらりと現れた。
「……ようやっとるな、日吉姫」
「信長さま! 姫はやめてくれや~~!!」
信長は、どこか愉快そうな顔で続ける。
「それにしても……女中どもが騒がしくなった。おまえ、いつのまに“女たらし”になったんじゃ?」
「ちゃいますて! わしはただ、草履と掃除と弁当食ってるだけで……!」
「それが一番効くんじゃろな。世の女子は、まじめな男に弱い。……ふむ、見込みがある」
「なにが“ふむ”や! わし、恋愛するために城勤めしとるんちゃうがね!」
信長は、鼻で笑った。
「まあよい。女子にモテるのは、兵にも信頼される資質じゃ。悪いことではない。……が」
そこで信長は、ぐっと日吉丸を見据えた。
「女に溺れるなよ。天下を取ると言ったのは、おまえ自身じゃ」
その言葉に、日吉丸ははっとした。
(……そうや。わしは……天下を取る男やて、自分で言うたんや)
「はいっ、信長さま!」
「よし。では明日から、女装稽古じゃな」
「そこ戻るんかーい!!」
どっと崩れる日吉丸。
その横で、利家が壁際からひょこっと顔を出した。
「……おまえ、ほんまにモテとるな」
「おまえも見とったんか!?」
「女中が三人おまえに弁当渡しとるの、全部カウントしとった」
「やめてくれぇぇぇぇぇっ!!」
その夜──
寝所の薄暗がりのなか、日吉丸はぼんやり天井を見つめていた。
(……モテるっちゅうのも、大変なことなんやな……)
そして、ふと頭をよぎる。
──おしのの柔らかい笑顔。
──ねねの怒った顔。
──信長の笑み。
(……わし、どこへ向かっとるんやろ……)
その答えは、まだ誰にも分からなかった。
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