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第9章『雲は西へ、風は城下へ』
第八十八話『視察団、来訪──藤吉郎の“顔”は城の顔』
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「殿下──! 京の貿易商団が来訪申しております!」
「またです! 今度は美濃からの豪族一行が! しかも女子連れ!」
「こっちは“墨俣の政と商業発展の秘訣”を学ぶための視察ツアーやて!!」
六月末、墨俣城はかつてないほどの賑わいを見せていた。
それもそのはず──墨俣で政と戦を両立させた木下藤吉郎秀吉、その名声は尾張・美濃を超えて、京・伊勢・越前あたりまで届いていた。
「藤吉郎を一目見たい」
「彼の政を学びたい」
「噂の“藤吉郎焼き”を食べたい」
──理由はさまざまだが、要するに“見物”である。
「わし、いつから“観光名所”なったんや……」
視察団対応に追われる秀吉は、すでに三日連続で昼飯を食べ損ねていた。
◆ ◆ ◆
一方、婦人会──もといヒロインたちは大混乱にあった。
「まずい。視察団のなかに“婚姻候補の姫”がおる!」
「え、また!? 何人目やの!??」
ねねは眼鏡をかけて帳簿をめくり、おしのは露天風呂の準備中止を訴え、お濃は視察団女子への“化粧品の貸し出し”に難色を示し、千鶴は無言で刀の刃を確認していた。
「もはや墨俣城、女たちの戦場と化しております!」
女中A「殿下ツアー、あと三本立て残ってますー!」
女中B「“藤吉郎様のご飯茶碗展示コーナー”大盛況ですー!」
女中C「“草履持ち時代の愛用品”に触れると恋が叶うって噂が──」
「わし、死ぬぅ!!!」
◆ ◆ ◆
視察のメインプログラムはこうである:
1.政務執務所の視察と質疑応答
2.城下の屋台通り散策(藤吉郎焼き試食あり)
3.“風の盾の間”展示室見学
4.殿下とのお茶会(ねね、苦笑)
「……観光バスかこれは」
秀吉は視察団の前で笑顔を振りまきながら、密かにため息を漏らしていた。
「政の話を聞かせてください」という質問には真摯に答える。
「殿下の“風の盾”とは?」という問いには照れながら語る。
だが視察団の視線は、政だけではなく、
彼自身──“藤吉郎そのもの”に向いていた。
◆ ◆ ◆
その夜、視察団が引き上げたあと。
「……疲れた」
湯上がりに縁側で涼む秀吉に、ねねが団扇を渡す。
「“あんたの顔が、城の顔”なんやろな」
「そんなん、ええことやない」
「でも、みんなが見てる。
あんたの笑い方、怒り方、気遣い方──全部」
「……怖いわ」
「せやけど、ええことや。あんたのやってきたことが、人を引き寄せてる。
その“顔”、大事にしいや」
「……ねね」
「ま、わたしのもんやけどな」
「お、おいこら」
こうして墨俣はまた一つ、異名を得た。
──“見られる城”。
そして秀吉の顔は、これからも“風の盾”として、多くの人々の前に立ち続けることとなる──。
「またです! 今度は美濃からの豪族一行が! しかも女子連れ!」
「こっちは“墨俣の政と商業発展の秘訣”を学ぶための視察ツアーやて!!」
六月末、墨俣城はかつてないほどの賑わいを見せていた。
それもそのはず──墨俣で政と戦を両立させた木下藤吉郎秀吉、その名声は尾張・美濃を超えて、京・伊勢・越前あたりまで届いていた。
「藤吉郎を一目見たい」
「彼の政を学びたい」
「噂の“藤吉郎焼き”を食べたい」
──理由はさまざまだが、要するに“見物”である。
「わし、いつから“観光名所”なったんや……」
視察団対応に追われる秀吉は、すでに三日連続で昼飯を食べ損ねていた。
◆ ◆ ◆
一方、婦人会──もといヒロインたちは大混乱にあった。
「まずい。視察団のなかに“婚姻候補の姫”がおる!」
「え、また!? 何人目やの!??」
ねねは眼鏡をかけて帳簿をめくり、おしのは露天風呂の準備中止を訴え、お濃は視察団女子への“化粧品の貸し出し”に難色を示し、千鶴は無言で刀の刃を確認していた。
「もはや墨俣城、女たちの戦場と化しております!」
女中A「殿下ツアー、あと三本立て残ってますー!」
女中B「“藤吉郎様のご飯茶碗展示コーナー”大盛況ですー!」
女中C「“草履持ち時代の愛用品”に触れると恋が叶うって噂が──」
「わし、死ぬぅ!!!」
◆ ◆ ◆
視察のメインプログラムはこうである:
1.政務執務所の視察と質疑応答
2.城下の屋台通り散策(藤吉郎焼き試食あり)
3.“風の盾の間”展示室見学
4.殿下とのお茶会(ねね、苦笑)
「……観光バスかこれは」
秀吉は視察団の前で笑顔を振りまきながら、密かにため息を漏らしていた。
「政の話を聞かせてください」という質問には真摯に答える。
「殿下の“風の盾”とは?」という問いには照れながら語る。
だが視察団の視線は、政だけではなく、
彼自身──“藤吉郎そのもの”に向いていた。
◆ ◆ ◆
その夜、視察団が引き上げたあと。
「……疲れた」
湯上がりに縁側で涼む秀吉に、ねねが団扇を渡す。
「“あんたの顔が、城の顔”なんやろな」
「そんなん、ええことやない」
「でも、みんなが見てる。
あんたの笑い方、怒り方、気遣い方──全部」
「……怖いわ」
「せやけど、ええことや。あんたのやってきたことが、人を引き寄せてる。
その“顔”、大事にしいや」
「……ねね」
「ま、わたしのもんやけどな」
「お、おいこら」
こうして墨俣はまた一つ、異名を得た。
──“見られる城”。
そして秀吉の顔は、これからも“風の盾”として、多くの人々の前に立ち続けることとなる──。
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