17 / 38
『地面の下から“ごちそうさま”が聞こえる』
しおりを挟む
「ねえ、聞こえた?」
「……なにが?」
「今、地面が“ごちそうさま”って言った」
そう言ったのは、ある小学生の男の子だった。
場所は、町の片隅にある小さな公園。
すべり台とブランコと、錆びた鉄棒があるだけの、誰も名前を知らないような公園。
放課後の陽射しの下、ランドセルを置いてお菓子を食べていたその子は、うっかりビスケットのかけらを地面に落とした。
そしてそのとき、耳元でかすかな声が聞こえたという。
──ごちそうさま……
最初は、風の音かと思った。
けれど、たしかに口調があった。
声色があった。
「おなか、いっぱい……ありがとね……」
地面の奥から、**“誰かの声”**がした。
その夜、その子は眠れなかった。
枕元の下から、また同じ声が聞こえてきた。
──もうすこし、ほしいな……
──また、あしたも……ちょうだい……
次の日、学校でその話をした。
「おまえ、なに言ってんの。地面がしゃべるわけねーじゃん」
「じゃあ、今度一緒に来てみろよ」
夕方、友達と公園に行き、今度はポテトチップスのかけらを落としてみた。
しばらくすると、土の表面がわずかにへこみ、そこから小さな“くぼみ”ができた。
そして──そのくぼみが、ゆっくりと開いていく。
まるで、“唇”のように。
穴は開かない。
ただ、地面が、口の形だけをして動いていた。
──パリ……パリ……
──サク……サク……
落としたチップスの音が、土の中から聞こえる。
友達は震えながら帰っていった。
それから、子どもたちの間で妙なブームが起きた。
お菓子のかけらを公園の地面に落とし、「どんな声が返ってくるか」を試す遊び。
「今日の声、女の人だった」
「おれのとき、“もっと甘いの”って言われた」
「せんべい落としたら、“これ、おばあちゃんの味”って言われた」
奇妙な共有が、子どもたちの中で広まっていった。
しかし、ある時から異変が起こる。
落とされた食べ物を“放置して帰った”子どもたちの家で、奇妙な現象が相次ぐようになる。
──夜、家の床下から、咀嚼音が聞こえる。
──台所の隅に、土の臭いが漂う。
──誰もいないはずの脱衣所で「おかわり……」と呟く声がする。
最初に消えたのは、例の男の子だった。
「また明日、持ってくるね」と言い残して、次の日から姿を見せなくなった。
警察は家出扱いで捜索を始めたが、行方はつかめなかった。
家の床下は、異常がなかった。
ただし、ひとつだけ異変があったという。
床下の土が、“舌の跡”のように波打っていた。
やがて、公園のブランコの下に、小さなメモが落ちていた。
紙は汚れており、にじんだ文字でこう書かれていた。
【あしたも もってきてね そしたら なか みせてあげる】
これ以降、食べ物を持っていかなくなった子どもたちの家庭で、異常が続く。
冷蔵庫の食材が減っていく。
包丁がまな板の上で勝手に揺れる。
深夜、廊下に“ぬれた足跡”が現れる。
そして次第に、家そのものが“食われ始める”。
壁に噛み痕のような跡。
床がふやけ、カーペットに歯型のような穴。
戸棚の奥が“ぬめった唇”のように動いている。
町内会で封鎖された公園。
だが、封鎖のテープの下には、毎晩新しいお菓子が置かれている。
だれが置いたのかはわからない。
ただ、次の日には必ず消えていて──
砂の上には、“手の跡でも足の跡でもない”形の凹みがある。
その中心に、小さな唇のような跡。
最近では、公園の地面だけでなく、学校の砂場からも声がするという。
──おいしかったよ
──つぎは もっと やわらかいの たべたいな……
そして今日も、どこかの子どもが──
「今日はぼくのを食べてくれた!」と、笑っていた。
「……なにが?」
「今、地面が“ごちそうさま”って言った」
そう言ったのは、ある小学生の男の子だった。
場所は、町の片隅にある小さな公園。
すべり台とブランコと、錆びた鉄棒があるだけの、誰も名前を知らないような公園。
放課後の陽射しの下、ランドセルを置いてお菓子を食べていたその子は、うっかりビスケットのかけらを地面に落とした。
そしてそのとき、耳元でかすかな声が聞こえたという。
──ごちそうさま……
最初は、風の音かと思った。
けれど、たしかに口調があった。
声色があった。
「おなか、いっぱい……ありがとね……」
地面の奥から、**“誰かの声”**がした。
その夜、その子は眠れなかった。
枕元の下から、また同じ声が聞こえてきた。
──もうすこし、ほしいな……
──また、あしたも……ちょうだい……
次の日、学校でその話をした。
「おまえ、なに言ってんの。地面がしゃべるわけねーじゃん」
「じゃあ、今度一緒に来てみろよ」
夕方、友達と公園に行き、今度はポテトチップスのかけらを落としてみた。
しばらくすると、土の表面がわずかにへこみ、そこから小さな“くぼみ”ができた。
そして──そのくぼみが、ゆっくりと開いていく。
まるで、“唇”のように。
穴は開かない。
ただ、地面が、口の形だけをして動いていた。
──パリ……パリ……
──サク……サク……
落としたチップスの音が、土の中から聞こえる。
友達は震えながら帰っていった。
それから、子どもたちの間で妙なブームが起きた。
お菓子のかけらを公園の地面に落とし、「どんな声が返ってくるか」を試す遊び。
「今日の声、女の人だった」
「おれのとき、“もっと甘いの”って言われた」
「せんべい落としたら、“これ、おばあちゃんの味”って言われた」
奇妙な共有が、子どもたちの中で広まっていった。
しかし、ある時から異変が起こる。
落とされた食べ物を“放置して帰った”子どもたちの家で、奇妙な現象が相次ぐようになる。
──夜、家の床下から、咀嚼音が聞こえる。
──台所の隅に、土の臭いが漂う。
──誰もいないはずの脱衣所で「おかわり……」と呟く声がする。
最初に消えたのは、例の男の子だった。
「また明日、持ってくるね」と言い残して、次の日から姿を見せなくなった。
警察は家出扱いで捜索を始めたが、行方はつかめなかった。
家の床下は、異常がなかった。
ただし、ひとつだけ異変があったという。
床下の土が、“舌の跡”のように波打っていた。
やがて、公園のブランコの下に、小さなメモが落ちていた。
紙は汚れており、にじんだ文字でこう書かれていた。
【あしたも もってきてね そしたら なか みせてあげる】
これ以降、食べ物を持っていかなくなった子どもたちの家庭で、異常が続く。
冷蔵庫の食材が減っていく。
包丁がまな板の上で勝手に揺れる。
深夜、廊下に“ぬれた足跡”が現れる。
そして次第に、家そのものが“食われ始める”。
壁に噛み痕のような跡。
床がふやけ、カーペットに歯型のような穴。
戸棚の奥が“ぬめった唇”のように動いている。
町内会で封鎖された公園。
だが、封鎖のテープの下には、毎晩新しいお菓子が置かれている。
だれが置いたのかはわからない。
ただ、次の日には必ず消えていて──
砂の上には、“手の跡でも足の跡でもない”形の凹みがある。
その中心に、小さな唇のような跡。
最近では、公園の地面だけでなく、学校の砂場からも声がするという。
──おいしかったよ
──つぎは もっと やわらかいの たべたいな……
そして今日も、どこかの子どもが──
「今日はぼくのを食べてくれた!」と、笑っていた。
0
あなたにおすすめの小説
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【1分読書】意味が分かると怖いおとぎばなし
響ぴあの
ホラー
【1分読書】
意味が分かるとこわいおとぎ話。
意外な事実や知らなかった裏話。
浦島太郎は神になった。桃太郎の闇。本当に怖いかちかち山。かぐや姫は宇宙人。白雪姫の王子の誤算。舌切りすずめは三角関係の話。早く人間になりたい人魚姫。本当は怖い眠り姫、シンデレラ、さるかに合戦、はなさかじいさん、犬の呪いなどなど面白い雑学と創作短編をお楽しみください。
どこから読んでも大丈夫です。1話完結ショートショート。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる