『闇憑き語り ――五百夜、目を逸らしてはならぬ物語』

本能寺から始める常陸之介寛浩

文字の大きさ
18 / 38

『拾ってはいけないランドセル』

しおりを挟む
 そのランドセルは、いつも“同じ場所”にあった。

 通学路の途中、団地の裏にあるカーブミラーの根元。
 小さな空き地の隅に、ぽつんと置かれた、赤いランドセル。

 誰のものかは、誰も知らない。
 毎朝そこにあって、毎晩もそこにある。

 不思議なのは、誰も盗らないし、誰も触れないことだった。

 落とし物として届けられた形跡もない。
 学校でも先生たちは特に話題に出さなかった。

 けれど、確かに“毎日、そこにあった”。

 雨の日も風の日も、ぐしゃりと潰れることも、泥まみれになることもなく、
 朝にはいつも、“乾いた状態”で元通りに座っていた。

 最初に異変に巻き込まれたのは、6年生の男子だった。

 帰り道、その日はたまたま一人だったという。

 ランドセルの横を通り過ぎようとしたとき、ふと、**「背負ってみようかな」**と思った。

 なぜ、そんなことを考えたのか自分でもわからなかったらしい。

 だが、自然と手が伸びた。
 肩紐に腕を通し、重みを感じたとき、心臓が一度だけ跳ねた。

 ──冷たい。

 触れた瞬間、布の感触が“生きているようだった”。

 でも彼は、そのまま家に帰ろうと歩き出した。

 だが──帰りつけなかった。

 道を間違えたわけでもない。

 通学路のはずなのに、通った覚えのない道に出た。

 見たことのない塀。
 知らない家。
 空き地の配置も、電柱の形も、街の音も、“ずれて”いた。

 気づけば、夕方だった。

 携帯も圏外になり、交番もなかった。

 彼が帰ってきたのは、3日後。

 見つかったとき、彼の背中には──あのランドセルが、ぴったりと張り付いていた。

 ベルトが食い込むように肩を締めつけ、皮膚にまで癒着していたという。

 救急隊が切ろうとしたとき、ランドセルの中から一枚の紙が出てきた。

【ぼくのかわりに かえってくれてありがとう】

 それ以来、そのランドセルはまた、元の場所に戻っていた。

 何事もなかったように、静かに、空き地に座っていた。

 子供たちは噂するようになった。

「背負うと、道がねじれる」
「手紙が入ってると、もう遅い」
「中に、“本当の持ち主”が入ってる」

 ある女子児童が、怖いもの見たさで中身を覗いた。

 中には、びっしりと手紙が入っていた。

 封筒に入っていない、折りたたまれただけの紙。
 表紙の一枚には、たった一言。

【これ、読んで】

 彼女は数枚読んでしまったという。

【おとうさん、おかあさん、ごめんなさい】
【きょうは へんなこえがして、うしろからついてくる】
【でも このかばんがあるから、だいじょうぶ】
【このかばんが まもってくれるって】

 翌日、彼女は風邪を理由に欠席した。

 しかしその夜、友人に電話がかかってきた。

「……なんか、うちの床が変なの。歩くと……音がするの。まるで誰かが、もうひとりいるみたいな……」

 次の日、彼女も消えた。

 彼女の部屋には、新しい手紙が1通、机の上に置かれていた。

【もうひとり みつかったよ】

 ランドセルの中の手紙は、日に日に増えていった。

 だが──字の形が少しずつ変わっていた。

 最初は小学生のような、たどたどしい字。

 それが、中学生、高校生、大人の筆跡へと変わり、
 ある時期から、筆跡が“誰にも読めない形”に崩れていった。

 最後の方の手紙は、ただの線と黒いシミになっていた。

 ある教師が、怖くなって役所に通報した。

 しかし職員が確認に来たとき、ランドセルは一度だけ“消えた”。

 だが、次の日の朝には戻っていた。

 前よりも綺麗に磨かれ、形が整い、新品のような状態で。

 そして──手紙はまた、最初の一枚目から始まっていた。

【はじめまして ○○っていいます よろしくね】

 宛名はなかった。

 けれど、その筆跡は──学校の誰かに似ていた。

 今日も、赤いランドセルは空き地にある。

 子供たちは、それを遠巻きに避けて通る。

 けれど、ときどき。

 誰かが──無意識に、背中に手を伸ばしてしまう瞬間がある。

 そのとき、ランドセルは“吸い付くように”肩に乗る。

 そして、歩き出す。

 帰れない道へ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

(ほぼ)5分で読める怖い話

涼宮さん
ホラー
ほぼ5分で読める怖い話。 フィクションから実話まで。

奇談

hyui
ホラー
真相はわからないけれど、よく考えると怖い話…。 そんな話を、体験談も含めて気ままに投稿するホラー短編集。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【1分読書】意味が分かると怖いおとぎばなし

響ぴあの
ホラー
【1分読書】 意味が分かるとこわいおとぎ話。 意外な事実や知らなかった裏話。 浦島太郎は神になった。桃太郎の闇。本当に怖いかちかち山。かぐや姫は宇宙人。白雪姫の王子の誤算。舌切りすずめは三角関係の話。早く人間になりたい人魚姫。本当は怖い眠り姫、シンデレラ、さるかに合戦、はなさかじいさん、犬の呪いなどなど面白い雑学と創作短編をお楽しみください。 どこから読んでも大丈夫です。1話完結ショートショート。

処理中です...