『闇憑き語り ――五百夜、目を逸らしてはならぬ物語』

本能寺から始める常陸之介寛浩

文字の大きさ
22 / 38

『無音通話』

しおりを挟む
 最初の着信は、夜の2時43分だった。

 スマホが震えた。
 しかし画面には──何も表示されていなかった。

 番号なし。非通知でもない。
 着信履歴にも残らない“空白の通話”。

 寝ぼけた指で応答ボタンを押す。

「……もしもし?」

 応答はない。
 ただ、無音だった。

 通話特有の“回線の奥行き”だけが存在していて、音も気配もなかった。

 切ろうとした瞬間、ふと耳に違和感を覚えた。

 何か──遠くの風のような音。

【…………スウゥ】

 呼吸音。

 そう、思った。

 その夜は、それだけだった。

 しかし翌日、再び“表示のない通話”が鳴った。

 時刻はまた、2時43分。

 何の気まぐれか、僕はまた応答してしまった。

 無音。

 けれど昨日よりも明確な、呼吸の“質感”。

 鼓膜に張りつくような、湿った息遣い。

【…………ハァ……】

 言葉にはなっていない。
 ただ、誰かが確かに、スマホの向こうで“存在している”気配。

 翌日も、その翌日も続いた。

 すべて、同じ時間に。
 すべて、通話履歴に残らず、ブロックも着信拒否もできない。

 やがて、部屋に異変が起き始める。

 スマホから応答していないのに、寝室のどこかから“呼吸音”が聞こえるようになった。

 最初は壁。
 次は天井。
 ある夜は、枕元。

【……ハ……ハ……】

 気のせいだ、と思いたかった。

 でも、確かに空気が揺れていた。

 風も送風機もないのに、“誰かが顔を近づけたような気圧のゆらぎ”が頬を撫でた。

 そして五日目の夜。
 表示のない着信に、いつものように応答しようとしたとき──

 スマホが勝手に応答された。

 触れていないのに、通話が開始された。

 画面には何も映らない。
 だが、耳に直接、声が届いた。

【……もう、つながってる】

 誰かの声。

 どこかで聞いたことのある声──いや、“まだこれから聞く予定の声”のようだった。

 そして、その直後から、スマホを使うたびに異常が起こる。

 ・マイクが勝手にONになる
 ・カメラが一瞬だけ黒く点滅する
 ・通話履歴に、自分の番号が追加される

 とくに最後の現象は、ぞっとした。

 発信者:自分
 着信者:自分
 通話時間:00:00:00

 何も記録されていない。
 けれど、何かは交信されていた気がする。

 スマホのバッテリーがやたらと減るようになった。

 端末の発熱。
 スクリーンショットに、自分の部屋の別アングルが混ざる。

 ──撮っていないのに。

 ある朝、目覚めると、ベッド脇にある本棚の上に、スマホが置かれていた。

 寝る前は充電ケーブルに差していたはずなのに。

 しかも、フロントカメラで撮影された画像が、1枚保存されていた。

 内容は、僕の寝顔。

 だが、撮影位置が明らかに高い。

 誰かが、僕を見下ろして撮った角度だった。

 それ以来、日中も耳の奥で“呼吸音”が聞こえるようになった。

 外にいても、電車に乗っていても、風のない部屋でも。

 ふとした瞬間に、空間の一部から**「……ハァ……」**という音が滲み出る。

 録音しても、音には残らない。

 けれど、自分の思考の中に入り込んでくる。

 ある晩、スマホが震えた。

 表示のない着信。
 けれど、応答もしていないのに──耳元に、ダイレクトに声が届いた。

【つながってる、でしょ】
【今さら切れないよ】
【きみの息と、わたしの息は、もう同じ空気だから】

 息苦しさに目を見開くと、スマホの画面が勝手に起動した。

 黒い背景に、白い文字。

 《応答中》

 その下に、こんな表記が浮かんでいた。

 《部屋番号:あなた》

 僕はスマホを窓から放り投げた。

 だが、投げた瞬間、ポケットの中で同じスマホが震えた。

 見ると、そこにはまた“表示のない着信”。

 今もたまに、耳の中が湿る感覚がある。

【切ったことに、なってるだけだよ】

 そう囁かれたその夜から──
 僕の呼吸に、もうひとつの息遣いが混ざっている。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

(ほぼ)5分で読める怖い話

涼宮さん
ホラー
ほぼ5分で読める怖い話。 フィクションから実話まで。

奇談

hyui
ホラー
真相はわからないけれど、よく考えると怖い話…。 そんな話を、体験談も含めて気ままに投稿するホラー短編集。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【1分読書】意味が分かると怖いおとぎばなし

響ぴあの
ホラー
【1分読書】 意味が分かるとこわいおとぎ話。 意外な事実や知らなかった裏話。 浦島太郎は神になった。桃太郎の闇。本当に怖いかちかち山。かぐや姫は宇宙人。白雪姫の王子の誤算。舌切りすずめは三角関係の話。早く人間になりたい人魚姫。本当は怖い眠り姫、シンデレラ、さるかに合戦、はなさかじいさん、犬の呪いなどなど面白い雑学と創作短編をお楽しみください。 どこから読んでも大丈夫です。1話完結ショートショート。

処理中です...