『お兄ちゃんのオタクを卒業させてみせるんだからね❤ ~ブラコン妹と幼馴染オタク姫の果てしなき戦い~』

本能寺から始める常陸之介寛浩

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【第9話『それでも、隣にいたくて──』】

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 もう、
 足が、動かなかった。

 夏の太陽が、容赦なく私の身体を焼いていく。

 汗で全身がべたべたになって、
 頭がぼんやりして、
 視界が白くかすんでいく。

(だめだ……)

 あと一歩、あと一歩だけ、って思ってた。

 なのに、身体は言うことを聞いてくれなかった。

 ガクン、と膝が崩れる。

 その瞬間──

「英梨!!」

 誰かの声が、遠くから聞こえた気がした。

 ──そして。

 ふわり、と。

 温かい腕に、抱きかかえられた。

「英梨、大丈夫か!?」

 耳元で、
 必死な声がする。

(……お兄ちゃん……)

 私は、力なく瞼を開いた。

 そこには、
 私を抱きかかえる、お兄ちゃんの顔。

 汗だくで、
 髪が額に張り付いていて、
 いつもみたいに格好つけてもいない。

 ただ、
 必死に、私の名前を呼んでいた。

(……ああ……)

 胸が、ぎゅうっと締めつけられた。

 お兄ちゃんの腕は、
 すごく、すごく温かかった。

 お兄ちゃんの匂いがした。

 柔軟剤と、
 ほんの少し汗のにおいと、
 それから、
 私がずっと、
 小さな頃から覚えている、
 世界で一番安心できる匂い。

(──やっぱり)

(やっぱり、あたし……)

 涙が、ぽろぽろと零れた。

 声にならない嗚咽が、
 喉の奥から、こみ上げた。

「英梨、ごめんな。俺、気づかなかった……!」

 お兄ちゃんは、
 私をそっと抱きしめたまま、
 必死に謝っていた。

「無理させたな……もう、頑張らなくていいからな……」

(……違うよ……)

 私は、心の中で呟いた。

 頑張りたかったんだ。
 無理でも、無茶でも、
 お兄ちゃんに、追いつきたかったんだ。

 ──離れたく、なかったんだ。

 声が出なかった。

 でも、心の中では、
 はっきりと叫んでいた。

(やっぱり……)

(やっぱり……お兄ちゃんが、一番だよ……)

 大好きな人。
 たったひとりの、大好きな人。

 その腕の中に、
 私はぐったりと身を預けた。

 もう、何も考えられなかった。

 ただ、
 お兄ちゃんの温もりだけを、
 必死に、必死に、抱きしめた。

 ──まるで、
 この先、何があっても、
 絶対に離れないって誓うみたいに。

「……ありがとう……お兄ちゃん……」

 かすれた声で、
 かろうじて、そう呟いた。

 お兄ちゃんは、
 一瞬びっくりした顔をして──

 それから、
 やさしく微笑んで、

「バカだな、お前は」

 って、
 いつもみたいに、頭をくしゃっと撫でてくれた。

(……うん、これだ)

 これが、
 私の知ってるお兄ちゃんだ。

 世界で一番、大好きな──
 私のお兄ちゃんだ。

 私は、もう一度、ぎゅっとお兄ちゃんの服を掴んだ。

 絶対に、
 絶対に、
 この手を離さないって、心に誓った。

 たとえ、
 どんなに世界が変わっても。

 たとえ、
 お兄ちゃんが、どんな道を歩んでも。

 私は、ずっと──

 お兄ちゃんの隣にいたい。

 そう、強く、思った。

 ──つづく。

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