61 / 101
第7章 新学期、恋と混沌とオタバトル
【第59話『甘えていいですか──ここなの“素”と涙』】
しおりを挟む
「……ふぃー、疲れたぁ~!」
放課後の屋上。
夕日を背に、真堂ここながベンチにぐてっと座り込んでいた。
「あたし、今日だけで“お兄ちゃん先輩”って7回呼んでるからね? 体力使うわ~マジで」
「あれ全部わざとなの知ってるけど、やめてとは言わないんだね利家……(ひより)」
「正直、聞いてるこっちが胃にくる」(あすか)
「おまえの“妹ムーブ”、計算されてんのか天然なのか、どっちなんだよ……(陽葵)」
みんなが笑いながら文句を言う中、
ここなはいつも通りの調子で返していた。
でも──ふとした瞬間、
英梨は見てしまった。
ここなが、手帳のようなものを静かに閉じる姿を。
表紙には、シールで飾られた文字。
「ひとりじゃないノート」
……なに、それ。
夜。
英梨が水を取りにキッチンへ行くと、
そこには、暗がりの中にポツンと座る“ここな”の姿があった。
テーブルに肘をつき、顎を乗せて、
ただ無言で、空を見上げていた。
「……ここな?」
「……あ、妹ちゃん」
振り向いたここなは、いつもの笑顔だった。
でも、その目元は、少しだけ赤くて。
「お水、取りに来た?」
「うん。……っていうか、なにしてるの? 電気もつけずに」
「……ちょっとね、静かな夜を演出してたの。主役っぽく」
「……ふざけてんの?」
「ふざけてるように見えるでしょ?」
「うん」
ここなは、ふっと笑ってから、言った。
「でも……ほんとはちょっとだけ、泣いてたの」
「……え?」
「ねえ、妹ちゃん。
あたしってさ、ずっと“おもしろキャラ”で生きてきたの。
変なことして、バカなことして、目立って、
“ここにいていい”って、思ってもらえるようにしてたの」
「でも、最近思うんだよね。
“そうでもしなきゃ、誰にも必要とされないかも”って」
「……うそ」
「うそじゃないよ」
「だって──
“本当のあたし”って、たぶん、つまんないし、
誰も見てくれないんだもん」
英梨は、言葉を失った。
ここなの目から、すっと涙がこぼれた。
「……居場所が、ほしかったんだ」
その声は、いつもの調子とはまるで違っていた。
静かで、小さくて、
でも、確かに響いた。
英梨は、戸惑いながらもそっと椅子に座った。
「……ずるいよ、ここな」
「え?」
「そういうこと、言われたら、怒れなくなるじゃん」
ここなが目を丸くする。
「わたし、ずっと“敵”だって思ってたのに。
“妹ポジ”奪いに来たやつだって、思ってたのに」
「でも今は、ちょっとだけ……」
「……ちょっとだけ?」
「……ちょっとだけ、同情した」
ここなが、目を細めて笑った。
「ありがと」
「でも」
英梨は立ち上がる。
「同情したからって、負けるつもりはないから」
「お兄ちゃんの隣は、
わたしの“特等席”なんだから」
その背中を、ここなはじっと見つめていた。
翌日、教室。
「おはよ~! 昨日ちょっと夜泣いちゃったけど、今日はフルパワーのここにゃんでいきまーす☆」
ここなは元通りのギャグキャラとして再起動していた。
だが、その姿を見つめる英梨の瞳には、
昨日までと少し違う色が宿っていた。
(笑ってるけど、本当は……)
そして、心の奥で小さく呟いた。
(受け入れたわけじゃない。許したわけでもない)
(でも──)
(少しだけ、わかってしまった)
その“弱さ”と、“ずるさ”を。
ここなという存在が、また一つ、
胸の中に入り込んでくるのを、
英梨は止められなかった。
──つづく。
放課後の屋上。
夕日を背に、真堂ここながベンチにぐてっと座り込んでいた。
「あたし、今日だけで“お兄ちゃん先輩”って7回呼んでるからね? 体力使うわ~マジで」
「あれ全部わざとなの知ってるけど、やめてとは言わないんだね利家……(ひより)」
「正直、聞いてるこっちが胃にくる」(あすか)
「おまえの“妹ムーブ”、計算されてんのか天然なのか、どっちなんだよ……(陽葵)」
みんなが笑いながら文句を言う中、
ここなはいつも通りの調子で返していた。
でも──ふとした瞬間、
英梨は見てしまった。
ここなが、手帳のようなものを静かに閉じる姿を。
表紙には、シールで飾られた文字。
「ひとりじゃないノート」
……なに、それ。
夜。
英梨が水を取りにキッチンへ行くと、
そこには、暗がりの中にポツンと座る“ここな”の姿があった。
テーブルに肘をつき、顎を乗せて、
ただ無言で、空を見上げていた。
「……ここな?」
「……あ、妹ちゃん」
振り向いたここなは、いつもの笑顔だった。
でも、その目元は、少しだけ赤くて。
「お水、取りに来た?」
「うん。……っていうか、なにしてるの? 電気もつけずに」
「……ちょっとね、静かな夜を演出してたの。主役っぽく」
「……ふざけてんの?」
「ふざけてるように見えるでしょ?」
「うん」
ここなは、ふっと笑ってから、言った。
「でも……ほんとはちょっとだけ、泣いてたの」
「……え?」
「ねえ、妹ちゃん。
あたしってさ、ずっと“おもしろキャラ”で生きてきたの。
変なことして、バカなことして、目立って、
“ここにいていい”って、思ってもらえるようにしてたの」
「でも、最近思うんだよね。
“そうでもしなきゃ、誰にも必要とされないかも”って」
「……うそ」
「うそじゃないよ」
「だって──
“本当のあたし”って、たぶん、つまんないし、
誰も見てくれないんだもん」
英梨は、言葉を失った。
ここなの目から、すっと涙がこぼれた。
「……居場所が、ほしかったんだ」
その声は、いつもの調子とはまるで違っていた。
静かで、小さくて、
でも、確かに響いた。
英梨は、戸惑いながらもそっと椅子に座った。
「……ずるいよ、ここな」
「え?」
「そういうこと、言われたら、怒れなくなるじゃん」
ここなが目を丸くする。
「わたし、ずっと“敵”だって思ってたのに。
“妹ポジ”奪いに来たやつだって、思ってたのに」
「でも今は、ちょっとだけ……」
「……ちょっとだけ?」
「……ちょっとだけ、同情した」
ここなが、目を細めて笑った。
「ありがと」
「でも」
英梨は立ち上がる。
「同情したからって、負けるつもりはないから」
「お兄ちゃんの隣は、
わたしの“特等席”なんだから」
その背中を、ここなはじっと見つめていた。
翌日、教室。
「おはよ~! 昨日ちょっと夜泣いちゃったけど、今日はフルパワーのここにゃんでいきまーす☆」
ここなは元通りのギャグキャラとして再起動していた。
だが、その姿を見つめる英梨の瞳には、
昨日までと少し違う色が宿っていた。
(笑ってるけど、本当は……)
そして、心の奥で小さく呟いた。
(受け入れたわけじゃない。許したわけでもない)
(でも──)
(少しだけ、わかってしまった)
その“弱さ”と、“ずるさ”を。
ここなという存在が、また一つ、
胸の中に入り込んでくるのを、
英梨は止められなかった。
──つづく。
10
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。
たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】
『み、見えるの?』
「見えるかと言われると……ギリ見えない……」
『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』
◆◆◆
仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。
劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。
ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。
後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。
尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。
また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。
尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……
霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。
3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。
愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー!
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
昔義妹だった女の子が通い妻になって矯正してくる件
マサタカ
青春
俺には昔、義妹がいた。仲が良くて、目に入れても痛くないくらいのかわいい女の子だった。
あれから数年経って大学生になった俺は友人・先輩と楽しく過ごし、それなりに充実した日々を送ってる。
そんなある日、偶然元義妹と再会してしまう。
「久しぶりですね、兄さん」
義妹は見た目や性格、何より俺への態度。全てが変わってしまっていた。そして、俺の生活が爛れてるって言って押しかけて来るようになってしまい・・・・・・。
ただでさえ再会したことと変わってしまったこと、そして過去にあったことで接し方に困っているのに成長した元義妹にドギマギさせられてるのに。
「矯正します」
「それがなにか関係あります? 今のあなたと」
冷たい視線は俺の過去を思い出させて、罪悪感を募らせていく。それでも、義妹とまた会えて嬉しくて。
今の俺たちの関係って義兄弟? それとも元家族? 赤の他人?
ノベルアッププラスでも公開。
フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件
遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。
一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた!
宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!?
※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。
善意一〇〇%の金髪ギャル~彼女を交通事故から救ったら感謝とか同情とか罪悪感を抱えられ俺にかまってくるようになりました~
みずがめ
青春
高校入学前、俺は車に撥ねられそうになっている女性を助けた。そこまではよかったけど、代わりに俺が交通事故に遭ってしまい入院するはめになった。
入学式当日。未だに入院中の俺は高校生活のスタートダッシュに失敗したと落ち込む。
そこへ現れたのは縁もゆかりもないと思っていた金髪ギャルであった。しかし彼女こそ俺が事故から助けた少女だったのだ。
「助けてくれた、お礼……したいし」
苦手な金髪ギャルだろうが、恥じらう乙女の前に健全な男子が逆らえるわけがなかった。
こうして始まった俺と金髪ギャルの関係は、なんやかんやあって(本編にて)ハッピーエンドへと向かっていくのであった。
表紙絵は、あっきコタロウさんのフリーイラストです。
大好きな幼なじみが超イケメンの彼女になったので諦めたって話
家紋武範
青春
大好きな幼なじみの奈都(なつ)。
高校に入ったら告白してラブラブカップルになる予定だったのに、超イケメンのサッカー部の柊斗(シュート)の彼女になっちまった。
全く勝ち目がないこの恋。
潔く諦めることにした。
自称未来の妻なヤンデレ転校生に振り回された挙句、最終的に責任を取らされる話
水島紗鳥
青春
成績優秀でスポーツ万能な男子高校生の黒月拓馬は、学校では常に1人だった。
そんなハイスペックぼっちな拓馬の前に未来の妻を自称する日英ハーフの美少女転校生、十六夜アリスが現れた事で平穏だった日常生活が激変する。
凄まじくヤンデレなアリスは拓馬を自分だけの物にするためにありとあらゆる手段を取り、どんどん外堀を埋めていく。
「なあ、サインと判子欲しいって渡された紙が記入済婚姻届なのは気のせいか?」
「気にしない気にしない」
「いや、気にするに決まってるだろ」
ヤンデレなアリスから完全にロックオンされてしまった拓馬の運命はいかに……?(なお、もう一生逃げられない模様)
表紙はイラストレーターの谷川犬兎様に描いていただきました。
小説投稿サイトでの利用許可を頂いております。
幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。
四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……?
どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、
「私と同棲してください!」
「要求が増えてますよ!」
意味のわからない同棲宣言をされてしまう。
とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。
中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。
無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる