『お兄ちゃんのオタクを卒業させてみせるんだからね❤ ~ブラコン妹と幼馴染オタク姫の果てしなき戦い~』

本能寺から始める常陸之介寛浩

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第7章 新学期、恋と混沌とオタバトル

【第59話『甘えていいですか──ここなの“素”と涙』】

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「……ふぃー、疲れたぁ~!」

 放課後の屋上。

 夕日を背に、真堂ここながベンチにぐてっと座り込んでいた。

「あたし、今日だけで“お兄ちゃん先輩”って7回呼んでるからね? 体力使うわ~マジで」

「あれ全部わざとなの知ってるけど、やめてとは言わないんだね利家……(ひより)」

「正直、聞いてるこっちが胃にくる」(あすか)

「おまえの“妹ムーブ”、計算されてんのか天然なのか、どっちなんだよ……(陽葵)」

 みんなが笑いながら文句を言う中、
 ここなはいつも通りの調子で返していた。

 でも──ふとした瞬間、
 英梨は見てしまった。

 ここなが、手帳のようなものを静かに閉じる姿を。

 表紙には、シールで飾られた文字。

「ひとりじゃないノート」

 ……なに、それ。

 夜。
 英梨が水を取りにキッチンへ行くと、
 そこには、暗がりの中にポツンと座る“ここな”の姿があった。

 テーブルに肘をつき、顎を乗せて、
 ただ無言で、空を見上げていた。

「……ここな?」

「……あ、妹ちゃん」

 振り向いたここなは、いつもの笑顔だった。

 でも、その目元は、少しだけ赤くて。

「お水、取りに来た?」

「うん。……っていうか、なにしてるの? 電気もつけずに」

「……ちょっとね、静かな夜を演出してたの。主役っぽく」

「……ふざけてんの?」

「ふざけてるように見えるでしょ?」

「うん」

 ここなは、ふっと笑ってから、言った。

「でも……ほんとはちょっとだけ、泣いてたの」

「……え?」

「ねえ、妹ちゃん。
 あたしってさ、ずっと“おもしろキャラ”で生きてきたの。
 変なことして、バカなことして、目立って、
 “ここにいていい”って、思ってもらえるようにしてたの」

「でも、最近思うんだよね。
 “そうでもしなきゃ、誰にも必要とされないかも”って」

「……うそ」

「うそじゃないよ」

「だって──
 “本当のあたし”って、たぶん、つまんないし、
 誰も見てくれないんだもん」

 英梨は、言葉を失った。

 ここなの目から、すっと涙がこぼれた。

「……居場所が、ほしかったんだ」

 その声は、いつもの調子とはまるで違っていた。

 静かで、小さくて、
 でも、確かに響いた。

 英梨は、戸惑いながらもそっと椅子に座った。

「……ずるいよ、ここな」

「え?」

「そういうこと、言われたら、怒れなくなるじゃん」

 ここなが目を丸くする。

「わたし、ずっと“敵”だって思ってたのに。
 “妹ポジ”奪いに来たやつだって、思ってたのに」

「でも今は、ちょっとだけ……」

「……ちょっとだけ?」

「……ちょっとだけ、同情した」

 ここなが、目を細めて笑った。

「ありがと」

「でも」

 英梨は立ち上がる。

「同情したからって、負けるつもりはないから」

「お兄ちゃんの隣は、
 わたしの“特等席”なんだから」

 その背中を、ここなはじっと見つめていた。

 翌日、教室。

「おはよ~! 昨日ちょっと夜泣いちゃったけど、今日はフルパワーのここにゃんでいきまーす☆」

 ここなは元通りのギャグキャラとして再起動していた。

 だが、その姿を見つめる英梨の瞳には、
 昨日までと少し違う色が宿っていた。

(笑ってるけど、本当は……)

 そして、心の奥で小さく呟いた。

(受け入れたわけじゃない。許したわけでもない)

(でも──)

(少しだけ、わかってしまった)

 その“弱さ”と、“ずるさ”を。

 ここなという存在が、また一つ、
 胸の中に入り込んでくるのを、
 英梨は止められなかった。

 ──つづく。
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