『お兄ちゃんのオタクを卒業させてみせるんだからね❤ ~ブラコン妹と幼馴染オタク姫の果てしなき戦い~』

本能寺から始める常陸之介寛浩

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第8章 推しの向こうにいるあなたへ──VTuber沼と恋と、妹の覚悟

第81話『英梨、兄との思い出を胸に──告白前夜』

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 文化祭も、終わりが見え始めていた。

 空が茜に染まり、屋台の煙が風に流れていく。
 片付けが始まり、ステージの照明がひとつずつ落ちていく──その中を、英梨はひとりで歩いていた。

 昇降口、体育館裏、渡り廊下。
 目に映るすべてが、思い出と重なる。

(……兄ちゃんと、ここ歩いたよね)

 心の奥に、次々と浮かんでくる記憶。

 ──小さな頃、風邪で熱を出して泣いた夜。
 利家は背中をさすりながら、一晩中そばにいてくれた。

「だいじょうぶ、英梨。兄ちゃんがいるから」

 ──帰り道、転んで膝を擦りむいたとき。
 ティッシュで血を拭いながら、「痛いの痛いの、兄ちゃんに飛んでけ」って、真顔で言ってくれた。

 ──中学に上がってからは、ちょっとずつ距離ができて。
 高校に入った頃には、もう彼は“推し活”一色で。
 あんなに優しかったのに、目線の先には、画面の中の女の子ばかり。

(……それでも)

 それでも、英梨はずっと利家を見ていた。

 朝、同じ味噌汁を飲むときの横顔。
 学校でたまに見かける、同級生に軽く会釈する姿。
 夜、部屋の明かりがついたまま寝落ちしているのを、こっそり消してあげたときの寝息。

(あたし、あの人のこと──ずっと、ずっと見てたんだ)

 “兄ちゃん”という存在じゃなくて。
 “ひとりの男の子”として。
 笑って、泣いて、夢中になって、それでも不器用で。

 そういう利家が、誰よりも好きだった。

 ──そして今。

 自分もたくさん悩んで、泣いて、逃げそうになって、
 でも“推し”や“ライバル”と向き合う中で、少しだけ変われた気がする。

(だから今日──ちゃんと、言うって決めたんだ)

 英梨は、屋上への階段をのぼる。

 太陽が沈む直前の、朱色の世界。
 夕日に染まった鉄柵が、彼女の足音に合わせて長く影を引く。

 すでに利家はそこにいた。
 文化祭のまとめ作業が一段落し、ひとりで空を見ていた。

「……兄ちゃん、今、いいかな」

 その声に、利家は振り向いた。

 一瞬だけ驚いたような表情。
 でもすぐに、優しく笑った。

「……おう。どうした?」

「ううん、別に。なんかさ、空が綺麗だったから、ちょっと一緒に見たくて」

 嘘だった。
 でも、すぐに本音を言うつもりだった。

 英梨は、柵にもたれて空を見上げた。
 ゆっくりと沈んでいく太陽。
 遠くに、鳥の群れがV字に飛んでいる。

「兄ちゃん」

「ん?」

 英梨は、拳をきゅっと握った。
 何度も練習したセリフ。でも、いざ目の前に立つと、喉が震えた。

(……でも、逃げないって決めたんだ)

「兄ちゃんに、伝えたいことがあるの」

 夕暮れの中で、彼女の影が利家の方へと伸びていく。
 その表情は、もう“妹”じゃない。

 ──少女は今、恋するひとりの女の子として、
 告白の舞台に立った。

 ──つづく。

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