織田信長の姪ーprincess cha-chaー悪役令嬢?炎の呪縛と復讐の姫 

本能寺から始める常陸之介寛浩

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④⑦話 帰蝶の引っ越し

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 帰蝶様が茶室で言っていたように、すぐに堺に引っ越すことが知らされた。







 引っ越しの当日、私は見送りのために岐阜城大手門へ向かった。







 門前に着くと、ちょうど引っ越しの行列が出発するところだった。







 朝靄が薄く立ち込める中、城下の者たちも道端に集まり、帰蝶様の旅立ちを見守っていた。







 堺は自由な気風の町とはいえ、この別れを惜しまぬ者はいなかった。







「茶々様、また抜け出してきたのですか?」







 見慣れた声に振り返ると、前田松が小走りに駆け寄ってきた。



 彼女は相変わらず朗らかな表情を浮かべている。







「松、失礼です。ちゃんと母上様には断ってきたのじゃ。護衛も連れて来ている」







 私の後ろに控える小太郎と、さらに二名の家臣が前田松に向かって深々と頭を下げる。







「あら、それならよろしいのです。茶々様も帰蝶様のお見送り?」







「帰蝶様は何かと気にかけてくださったから……」







「帰蝶様はご苦労が絶えない方でしたから、堺で自由に暮らせるのは本当に良いことでしょうね」







 私たちがそう話していると、行列の先頭にある輿が門に差し掛かった。







「輿を止めよ」







 凛とした声が響く。



 帰蝶様の命により、輿は静かに地面へと下ろされた。



 御簾が上がると、そこには品のある微笑を浮かべた帰蝶様の姿があった。







「茶々、見送りに来てくれたのですか? ありがとう」







 柔らかな眼差しを向ける帰蝶様の言葉に、私は胸が温かくなった。







「それに、前田利家の正室でしたね? 茶々の付き添いですか? ご苦労様です」







「帰蝶様にお声がけいただけるなんて……光栄です」







 前田松は感極まり、目頭を押さえながら応じた。







「茶々、近う」







 帰蝶様に呼ばれ、私は輿のすぐそばへ進んだ。その瞬間、帰蝶様は後ろから懐剣を取り出し、私に差し出した。







「茶々、これを授けます。この刃を織田家に向けることは、私が許しません。しかし、身を守るときは躊躇なく使いなさい」







 細身の刀身が鈍く光を放つ。繊細な彫りが施された見事な懐剣だった。







「ありがとうございます」







 受け取る手がわずかに震えた。帰蝶様が何を思ってこの懐剣を渡したのか、その意味を私は深く考えずにはいられなかった。







「茶々、もし岐阜での暮らしがどうしても耐えられなくなったら、私のところに来なさい。いいですね?」







「帰蝶様……」







 彼女の言葉は優しさに満ちていたが、その奥に秘めた何かを感じた。







「私は織田家の者であって、織田家の者にあらず。あなたと同じです」







 帰蝶様の言葉が胸に突き刺さる。私は本当に織田家の者なのか、それとも違うのか。今まで疑問に思ったことのなかった問いが、心の奥に深く刻まれる。







「帰蝶様、私はどうしたら……?」







「それはあなたが決めることです。答えが出たら教えなさい」







「はい……」







 御簾が静かに下ろされた。再び輿が持ち上げられ、行列が動き出す。







 私は、長い行列が城門を完全に抜けるまで、その背中を見送った。







 風が吹き抜ける。







 帰蝶様がこの城からいなくなる――その現実が、徐々に私の胸に広がっていった。







 遠ざかる行列を見つめながら、私は握りしめた懐剣の冷たさを感じていた。







 この刃が、私を守るものとなるのか、それとも――







 答えを見つけるのは、まだ少し先のことになりそうだった。
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