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第1章『うんちと再誕』
第10話『転がした、その先に』
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──その日、ヒロヒロは、一人で転がした。
広場ではなく、訓練場でもなく、虫たちの目もない──森の奥の、誰も来ない開けた土の空間。
そこに、一つのフン球を置いた。
昨日の夕方、ころりんから手渡された、“あたたかいうんち”。
「これ、自分で転がしてみて」
そう言って微笑んだ、あの笑顔を思い出す。
それは、ころりんが一日かけて、自分のために調整してくれた“オリジナル配合”。
栄養、湿度、草の繊維、香り──すべてがヒロヒロの“転がし感覚”に合わせて調合されていた。
「……よし、いくぞ」
深く、ゆっくり息を吐く。
脚を、そっと球に添える。
押さない。
引かない。
ただ、受け止める。
命の重さを。
記憶の厚みを。
この“球”に詰まった、誰かの時間すべてを。
──そして、転がす。
土を踏みしめる。
脚の角度を調整する。
呼吸を合わせ、球と“一体化”する感覚を探る。
ごろっ。
最初は、わずかだった。
だが、確かに──転がった。
「……!」
ヒロヒロの体に、電流が走る。
“感じる”のだ。
球が土の上をなめらかに進み、摩擦のリズムが呼吸に溶けていく。
次の一歩。
球が、ほんのわずかに軌道をズラす。
それに合わせて、ヒロヒロの脚も自然と位置を調整する。
転がす。
また転がす。
重さが、心地いい。
不思議だった。
まるで“誰かと会話してる”みたいに、うんちが応えてくる。
──“ありがとう”って、言ってるみたいだった。
「……そうか、これって──命が、俺を、信じてくれてるってことか……」
一歩ずつ、確かにフンは進んでいく。
ヒロヒロの心も、一緒に前へ進む。
そのときだった。
ふわっ……と、光が立った。
フンの表面から、やわらかな光粒子が舞い上がった。
淡い金色。
ふわりと弾けて、空に溶けていく。
「……っ……光ってる……!?」
光の中心には、模様が浮かび上がっていた。
──掌のような印。
ころりんが見せてくれた、神殿の“神のフン”と同じ──命の象徴だった。
「……これが、“聖糞”……」
そのとき、ヒロヒロは理解した。
ただ出された排泄物ではない。
ただ転がされた球体でもない。
誰かが生きて、食べて、苦しんで、笑って、悲しんで、
そして残した“最後の贈り物”。
それを受け止め、
“物語”として次に繋げたとき──
うんちは、**命の記録(ストーリー)**になる。
──それが、“光る”ということ。
ヒロヒロは、立ち止まり、静かに膝をついた。
「……転がした先に、“誰か”がいてくれたんだ」
今までは“自分のうんち”を転がしていた。
けど今回は違う。
“誰かの命”を、ヒロヒロが、預かった。
「怖かった。
ちゃんと転がせるか、自分なんかでいいのか、何もかも不安だったけど──
でも、やってよかった。
“命”って、ちゃんと届くんだな……」
その時、背後で小さな羽音がした。
「……やっぱり、来てたね」
振り向くと、ころりんがそこにいた。
森の影からそっと見守っていたらしい。
「……見てたのかよ、恥ずかしいな」
「ううん。
とっても、きれいだったよ。
ちゃんと光ってた。
ヒロヒロの“転がし”が、ちゃんと命に届いたってことだよ」
ヒロヒロは、俯いた。
けれど、心は晴れていた。
夕暮れ。
二匹は並んで、光り終えたフン球を見つめていた。
もう光は消えている。
でも、それでも──
「……なんか、これ、俺の“最初の作品”って感じする」
「ふふ、虫界デビュー作だね」
「うん。タイトルは──
“転がした、その先に”。どう?」
ころりんが、笑った。
「最高だよ。きっと、たくさんの命に届くよ」
その日、ヒロヒロは“初めて自力で転がしたうんち”を、“聖糞球”として村の“供養台”に奉納した。
そこには、小さな名札が添えられた。
《記録者:ヒロヒロ》
《フン名:ころりんNo.1》
《発光確認:有》
《備考:はじめての気持ちを、ちゃんと転がせた日》
世界は、小さな命の球でできている。
そしてそれは、今日も、明日も、
きっと誰かが──転がしてくれている。
──ヒロヒロもまた、その一人だった。
広場ではなく、訓練場でもなく、虫たちの目もない──森の奥の、誰も来ない開けた土の空間。
そこに、一つのフン球を置いた。
昨日の夕方、ころりんから手渡された、“あたたかいうんち”。
「これ、自分で転がしてみて」
そう言って微笑んだ、あの笑顔を思い出す。
それは、ころりんが一日かけて、自分のために調整してくれた“オリジナル配合”。
栄養、湿度、草の繊維、香り──すべてがヒロヒロの“転がし感覚”に合わせて調合されていた。
「……よし、いくぞ」
深く、ゆっくり息を吐く。
脚を、そっと球に添える。
押さない。
引かない。
ただ、受け止める。
命の重さを。
記憶の厚みを。
この“球”に詰まった、誰かの時間すべてを。
──そして、転がす。
土を踏みしめる。
脚の角度を調整する。
呼吸を合わせ、球と“一体化”する感覚を探る。
ごろっ。
最初は、わずかだった。
だが、確かに──転がった。
「……!」
ヒロヒロの体に、電流が走る。
“感じる”のだ。
球が土の上をなめらかに進み、摩擦のリズムが呼吸に溶けていく。
次の一歩。
球が、ほんのわずかに軌道をズラす。
それに合わせて、ヒロヒロの脚も自然と位置を調整する。
転がす。
また転がす。
重さが、心地いい。
不思議だった。
まるで“誰かと会話してる”みたいに、うんちが応えてくる。
──“ありがとう”って、言ってるみたいだった。
「……そうか、これって──命が、俺を、信じてくれてるってことか……」
一歩ずつ、確かにフンは進んでいく。
ヒロヒロの心も、一緒に前へ進む。
そのときだった。
ふわっ……と、光が立った。
フンの表面から、やわらかな光粒子が舞い上がった。
淡い金色。
ふわりと弾けて、空に溶けていく。
「……っ……光ってる……!?」
光の中心には、模様が浮かび上がっていた。
──掌のような印。
ころりんが見せてくれた、神殿の“神のフン”と同じ──命の象徴だった。
「……これが、“聖糞”……」
そのとき、ヒロヒロは理解した。
ただ出された排泄物ではない。
ただ転がされた球体でもない。
誰かが生きて、食べて、苦しんで、笑って、悲しんで、
そして残した“最後の贈り物”。
それを受け止め、
“物語”として次に繋げたとき──
うんちは、**命の記録(ストーリー)**になる。
──それが、“光る”ということ。
ヒロヒロは、立ち止まり、静かに膝をついた。
「……転がした先に、“誰か”がいてくれたんだ」
今までは“自分のうんち”を転がしていた。
けど今回は違う。
“誰かの命”を、ヒロヒロが、預かった。
「怖かった。
ちゃんと転がせるか、自分なんかでいいのか、何もかも不安だったけど──
でも、やってよかった。
“命”って、ちゃんと届くんだな……」
その時、背後で小さな羽音がした。
「……やっぱり、来てたね」
振り向くと、ころりんがそこにいた。
森の影からそっと見守っていたらしい。
「……見てたのかよ、恥ずかしいな」
「ううん。
とっても、きれいだったよ。
ちゃんと光ってた。
ヒロヒロの“転がし”が、ちゃんと命に届いたってことだよ」
ヒロヒロは、俯いた。
けれど、心は晴れていた。
夕暮れ。
二匹は並んで、光り終えたフン球を見つめていた。
もう光は消えている。
でも、それでも──
「……なんか、これ、俺の“最初の作品”って感じする」
「ふふ、虫界デビュー作だね」
「うん。タイトルは──
“転がした、その先に”。どう?」
ころりんが、笑った。
「最高だよ。きっと、たくさんの命に届くよ」
その日、ヒロヒロは“初めて自力で転がしたうんち”を、“聖糞球”として村の“供養台”に奉納した。
そこには、小さな名札が添えられた。
《記録者:ヒロヒロ》
《フン名:ころりんNo.1》
《発光確認:有》
《備考:はじめての気持ちを、ちゃんと転がせた日》
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そしてそれは、今日も、明日も、
きっと誰かが──転がしてくれている。
──ヒロヒロもまた、その一人だった。
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