『下血により死んだライトノベル作家・常陸之介寛浩は転生するとフンコロガシになっていた件』》

本能寺から始める常陸之介寛浩

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第1章『うんちと再誕』

第9話『聖糞力(フンパワー)ってなんですか?』

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 それは、まるで偶然のようで、運命のようでもあった。

 ある日、いつものようにヒロヒロが訓練場で転がし練習をしていたときのことだった。

「──っしゃあっ、決まった!」

 うんち球は美しい弧を描いて地面を転がり、ぴたりと停止した。
 転がしの角度、力の加減、土との摩擦──すべてが絶妙に噛み合った完璧な一撃だった。

 するとその瞬間──

 ぶぉんっ……!

 フン球の中心から、うっすらと金色の粒子が舞い上がった。

「……え、えええええっ!? なにこれ!? なんか出た!? なんか出てるよ!?」

「おいおい、それってまさか──“出た”のか!?」

 慌てて駆け寄ってきたのは、聖糞村の科学虫にしてうんち研究家、メタ=ドクターだった。

 白衣のような翅をまとい、左目にゴーグル、そして常にフンを三個以上携帯するという徹底した“うんちフリーク”。

「間違いない……これは、“フンパワー”の初期発現現象だ……!」

「フン……パワー……!?」

「正確には《聖糞力(せいふんりょく)》──通称フンパワー。
 フンを一定のリズム、意志、技術、そして“共鳴”で転がすことで生じる虫体エネルギーの一種さ!」

「ちょっと何言ってるかわかんないです!!」

「まぁ、ざっくり言えば、“うんちを愛して転がしたら、不思議な力が生まれた”ってやつだ」

 ヒロヒロは、ポカンと口を開け──そして閉じた。
 考えたくなかったが、こう結論せざるを得なかった。

「俺、いま、“うんちからエネルギーを得てる”のか……」

「うむ。君の中にフンが通った証だ!」

 やめてその言い方!!

 メタ=ドクターによれば、聖糞虫の中には、ごく稀に“フンの核”と呼ばれる特定のうんち球と“共振”する能力を持つ者がいるという。

「共振……って、オタクが好きなアニメとか見て“分かりみが深い”ってなるアレ?」

「大体合ってる。ようするに、“共感の強さ”がエネルギーの源ってことさ」

 ヒロヒロは、ふと昨日ころりんのフンを読んだときの感覚を思い出した。

 ──誰かの命がそこにある。
 ──誰かの記憶がそこにある。

 それを理解し、受け止め、転がすことで、何かが自分の中に流れ込んできた。
 あれは──確かに“力”だった。

「ねぇ、それってつまり、“フンを読める作家型”だから、俺に力が出たってこと?」

「そのとおり! 君は“フン読み”タイプの聖糞虫!
 いわば、“感性共鳴型”のフンパワー資質持ちさ!」

「なんかよくわかんないけど、能力者っぽい言い方ありがたい!」

 ころりんが、そっとヒロヒロの隣に腰を下ろした。

「ねえ、ヒロヒロ。いま、どんな感じだった?」

「ん……なんだろ。
 こう、体の芯に“通った”感じ。
 まるで……小説のラストをぴたりと決めたときみたいな。
 読者の誰かと、ちゃんと繋がれた、っていう感覚……」

 ころりんは嬉しそうにうなずいた。

「それ、まさに“転がしの極意”なんだよ。
 うんちって、**誰かの物語の“エピローグ”**なんだよね。
 それを転がして、誰かに届ける。
 ヒロヒロのフンパワーは、たぶん、そういう“読んで伝える力”なんだよ」

「……なんだよ、俺、やっぱラノベ作家のまんまじゃん……」

 嬉しいのか、情けないのか、自分でもよくわからない。
 でも──悪くなかった。

 その日の夕方、メタ=ドクターが正式に“フン共鳴値測定儀”でヒロヒロを計測した結果──

「聖糞波:平均の28倍」
「フン回転整合率:92.7%」
「うんち共感度:限界突破(※異常反応)」

 という記録が出た。

「これは……フン界の伝説、“金転の再来”レベル……!」

「いや、その異名はやめてくれ! いろんな意味で“金”がいやすぎる!」

 その夜。

 ヒロヒロは、自分のフン球の上に立っていた。
 下には、静かに回る、今日一日かけて丁寧に転がした球。

 草の香り、土のぬくもり、命の証。

 そこから、ほんのりと光が立ちのぼっている。

「……これが、“書く”ことの、続きなのかもしれないな……」

 言葉で伝えるのが“作家”なら、
 転がして届けるのが“転がし手”。

「俺──“転がし作家”になるよ」

 誰にともなく、そうつぶやいた。
 自分の命を、誰かの命を、うんちという形で転がして──

 誰かに、届けるために。

 

 ──そのとき、世界が少しだけ、明るく見えた気がした。
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