9 / 15
第1章『うんちと再誕』
第8話『僕の前世はラノベ作家だった』
しおりを挟む
それは、一陣の風と共に訪れた。
「──あんたって、ホントに“ヒロヒロ”って名前だったの?」
ころりんが、フン訓練の休憩中、ふと聞いてきた。
「うん、本名はもう忘れたけど……“常陸之介寛浩”ってペンネームだった。人間だったころの」
「へぇぇ……なんか、強そうな名前」
「“ラノベ作家”としては……ね。ちょっと古風な名前で売り出したかったんだ。
最初に当たったのが『異世界でハーレム築いたら寿命が減った件』ってやつで──」
「タイトルすごすぎない!?」
「いや、ほんと……あのときの編集、“ヤバい名前じゃないと売れない”って叫んでてさ……」
苦笑しながらも、ヒロヒロの表情はどこか懐かしげだった。
土の上で寝転びながら、空を見上げてぽつりぽつりと語る。
人間だったころ。
そして、作家として生きていたころ。
「物語を書くって、ずっと怖かったんだ。
“これでいいのか?”“誰かを傷つけないか?”“本当に面白いのか?”──
自分の頭の中を、誰かに見せるのって、けっこうエグいよね」
「うんち見せるのと、似てる?」
「……めっちゃ似てる」
ヒロヒロは笑った。
ころりんも、笑った。
「しかも俺、売れちゃったんだよね。
ちょっとずつ、数字が出て、ランキングに入って、SNSで感想が回ってきて……
最初は嬉しかったけど、だんだん“どうやって書いたか”より“どれだけ売れたか”が気になってきてさ。
気づいたら、“物語を書く”より、“数字を出す”ことばっかり考えてた」
静かな風が吹いた。
森の葉が、さわさわと震える。
「いつの間にか、“誰かの心を救いたい”とか、“命の続きを描きたい”とか、そういうこと……全部忘れてた」
「それで、下血したの?」
「……あぁ。トイレの中で倒れて……そのまま、気がついたらここだった」
ヒロヒロは、足元の小さなフン球を見つめた。
その中に、彼は自分の“かつての文章”を感じた。
稚拙だけど、誠実だった頃の物語。
小さな感情を大切に描いていた、初期の自分。
「でも、こっちに来て、ようやく思い出したんだよ。
書くって、本当は、**“誰かを受け止めること”**だったって」
「……“転がす”のと、同じ?」
「うん。“想い”を転がす。“誰かのフン”を、丁寧に受け止めて、運んで、形にして──
それが“書く”ってことだった気がする」
ころりんが、そっと寄り添ってきた。
「ねぇ、ヒロヒロ。“転がし作家”になれば?」
「……なにそれ」
「この世界で、フンを読んで、そこにあった命や記憶を“物語”にしてくれる虫。
昔はそういう虫もいたんだって。“記憶書き”って呼ばれてたらしいよ」
「……いいな、それ。俺、それになるわ」
「じゃあさ──」
ころりんが、小さなフン球をひとつ、ヒロヒロの脚元にそっと置いた。
「これ、あたしの。……ちょっとだけ、読んでみて?」
「……えっ」
「さっき、訓練中に出したやつ……ごめん、変なお願いって思うかもだけど、
でも、あたし──ヒロヒロなら、読んでくれるって、思ったから」
ヒロヒロは、迷わず脚を添えた。
ふんわりと、草の匂い。
わずかな花粉。
朝露の苦み。
そして……ほんの少し、涙の味。
──
小さなころ、姉虫が死んだ。
目の前で、捕食者にさらわれた。
自分だけが逃げて、助かった。
罪悪感。
恐怖。
でも……
姉虫が、最後に言った言葉。
「ころりん、笑って生きてね──」
ヒロヒロの目から、こぼれたのは、涙だった。
虫に涙腺はない。
でも、彼は間違いなく、泣いていた。
「……ありがとう、ころりん。
……すごく、綺麗な物語だったよ」
ころりんは、驚いたような顔をして、それから、そっと微笑んだ。
その夜。
ヒロヒロは、自分のフン球の表面に、前脚で“文字”を刻み始めた。
虫たちは読めないかもしれない。
でも、書きたかった。
“この命を、物語にして残したい”
“この世界の誰かのことを、受け止めて、描いて、届けたい”
「俺……虫でも、ラノベ作家やってけるかもな……」
土の匂いの中で、フンが静かに転がる。
物語は、文字としてではなく──球として綴られていく。
誰かの命を受け取って。
誰かに命を渡すように。
──僕の前世はラノベ作家だった。
でも今は、うんちを転がして物語を紡ぐ虫だ。
それは、ちょっとだけ誇らしい再出発だった。
「──あんたって、ホントに“ヒロヒロ”って名前だったの?」
ころりんが、フン訓練の休憩中、ふと聞いてきた。
「うん、本名はもう忘れたけど……“常陸之介寛浩”ってペンネームだった。人間だったころの」
「へぇぇ……なんか、強そうな名前」
「“ラノベ作家”としては……ね。ちょっと古風な名前で売り出したかったんだ。
最初に当たったのが『異世界でハーレム築いたら寿命が減った件』ってやつで──」
「タイトルすごすぎない!?」
「いや、ほんと……あのときの編集、“ヤバい名前じゃないと売れない”って叫んでてさ……」
苦笑しながらも、ヒロヒロの表情はどこか懐かしげだった。
土の上で寝転びながら、空を見上げてぽつりぽつりと語る。
人間だったころ。
そして、作家として生きていたころ。
「物語を書くって、ずっと怖かったんだ。
“これでいいのか?”“誰かを傷つけないか?”“本当に面白いのか?”──
自分の頭の中を、誰かに見せるのって、けっこうエグいよね」
「うんち見せるのと、似てる?」
「……めっちゃ似てる」
ヒロヒロは笑った。
ころりんも、笑った。
「しかも俺、売れちゃったんだよね。
ちょっとずつ、数字が出て、ランキングに入って、SNSで感想が回ってきて……
最初は嬉しかったけど、だんだん“どうやって書いたか”より“どれだけ売れたか”が気になってきてさ。
気づいたら、“物語を書く”より、“数字を出す”ことばっかり考えてた」
静かな風が吹いた。
森の葉が、さわさわと震える。
「いつの間にか、“誰かの心を救いたい”とか、“命の続きを描きたい”とか、そういうこと……全部忘れてた」
「それで、下血したの?」
「……あぁ。トイレの中で倒れて……そのまま、気がついたらここだった」
ヒロヒロは、足元の小さなフン球を見つめた。
その中に、彼は自分の“かつての文章”を感じた。
稚拙だけど、誠実だった頃の物語。
小さな感情を大切に描いていた、初期の自分。
「でも、こっちに来て、ようやく思い出したんだよ。
書くって、本当は、**“誰かを受け止めること”**だったって」
「……“転がす”のと、同じ?」
「うん。“想い”を転がす。“誰かのフン”を、丁寧に受け止めて、運んで、形にして──
それが“書く”ってことだった気がする」
ころりんが、そっと寄り添ってきた。
「ねぇ、ヒロヒロ。“転がし作家”になれば?」
「……なにそれ」
「この世界で、フンを読んで、そこにあった命や記憶を“物語”にしてくれる虫。
昔はそういう虫もいたんだって。“記憶書き”って呼ばれてたらしいよ」
「……いいな、それ。俺、それになるわ」
「じゃあさ──」
ころりんが、小さなフン球をひとつ、ヒロヒロの脚元にそっと置いた。
「これ、あたしの。……ちょっとだけ、読んでみて?」
「……えっ」
「さっき、訓練中に出したやつ……ごめん、変なお願いって思うかもだけど、
でも、あたし──ヒロヒロなら、読んでくれるって、思ったから」
ヒロヒロは、迷わず脚を添えた。
ふんわりと、草の匂い。
わずかな花粉。
朝露の苦み。
そして……ほんの少し、涙の味。
──
小さなころ、姉虫が死んだ。
目の前で、捕食者にさらわれた。
自分だけが逃げて、助かった。
罪悪感。
恐怖。
でも……
姉虫が、最後に言った言葉。
「ころりん、笑って生きてね──」
ヒロヒロの目から、こぼれたのは、涙だった。
虫に涙腺はない。
でも、彼は間違いなく、泣いていた。
「……ありがとう、ころりん。
……すごく、綺麗な物語だったよ」
ころりんは、驚いたような顔をして、それから、そっと微笑んだ。
その夜。
ヒロヒロは、自分のフン球の表面に、前脚で“文字”を刻み始めた。
虫たちは読めないかもしれない。
でも、書きたかった。
“この命を、物語にして残したい”
“この世界の誰かのことを、受け止めて、描いて、届けたい”
「俺……虫でも、ラノベ作家やってけるかもな……」
土の匂いの中で、フンが静かに転がる。
物語は、文字としてではなく──球として綴られていく。
誰かの命を受け取って。
誰かに命を渡すように。
──僕の前世はラノベ作家だった。
でも今は、うんちを転がして物語を紡ぐ虫だ。
それは、ちょっとだけ誇らしい再出発だった。
0
あなたにおすすめの小説
生まれたばかりですが、早速赤ちゃんセラピー?始めます!
mabu
児童書・童話
超ラッキーな環境での転生と思っていたのにママさんの体調が危ないんじゃぁないの?
ママさんが大好きそうなパパさんを闇落ちさせない様に赤ちゃんセラピーで頑張ります。
力を使って魔力を増やして大きくなったらチートになる!
ちょっと赤ちゃん系に挑戦してみたくてチャレンジしてみました。
読みにくいかもしれませんが宜しくお願いします。
誤字や意味がわからない時は皆様の感性で受け捉えてもらえると助かります。
流れでどうなるかは未定なので一応R15にしております。
現在投稿中の作品と共に地道にマイペースで進めていきますので宜しくお願いします🙇
此方でも感想やご指摘等への返答は致しませんので宜しくお願いします。
魔法使いアルル
かのん
児童書・童話
今年で10歳になるアルルは、月夜の晩、自分の誕生日に納屋の中でこっそりとパンを食べながら歌を歌っていた。
これまで自分以外に誰にも祝われる事のなかった日。
だが、偉大な大魔法使いに出会うことでアルルの世界は色を変えていく。
孤独な少女アルルが、魔法使いになって奮闘する物語。
ありがたいことに書籍化が進行中です!ありがとうございます。
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
児童書・童話
毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
連載時、HOT 1位ありがとうございました!
その他、多数投稿しています。
こちらもよろしくお願いします!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
【3章】GREATEST BOONS ~幼なじみのほのぼのバディがクリエイトスキルで異世界に偉大なる恩恵をもたらします!~
丹斗大巴
児童書・童話
幼なじみの2人がグレイテストブーンズ(偉大なる恩恵)を生み出しつつ、異世界の7つの秘密を解き明かしながらほのぼの旅をする物語。
異世界に飛ばされて、小学生の年齢まで退行してしまった幼なじみの銀河と美怜。とつじょ不思議な力に目覚め、Greatest Boons(グレイテストブーンズ:偉大なる恩恵)をもたらす新しい生き物たちBoons(ブーンズ)とアイテムを生みだした! 彼らのおかげでサバイバルもトラブルもなんのその! クリエイト系の2人が旅するほのぼの異世界珍道中。
便利な「しおり」機能を使って読み進めることをお勧めします。さらに「お気に入り登録」して頂くと、最新更新のお知らせが届いて便利です! レーティング指定の描写はありませんが、万が一気になる方は、目次※マークをさけてご覧ください。
運よく生まれ変われたので、今度は思いっきり身体を動かします!
克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞」重度の心臓病のため、生まれてからずっと病院のベッドから動けなかった少年が12歳で亡くなりました。両親と両祖父母は毎日のように妾(氏神)に奇跡を願いましたが、叶えてあげられませんでした。神々の定めで、現世では奇跡を起こせなかったのです。ですが、記憶を残したまま転生させる事はできました。ほんの少しだけですが、運動が苦にならない健康な身体と神与スキルをおまけに付けてあげました。(氏神談)
14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート
谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。
“スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。
そして14歳で、まさかの《定年》。
6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。
だけど、定年まで残された時間はわずか8年……!
――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。
だが、そんな幸弘の前に現れたのは、
「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。
これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。
描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。
ナナの初めてのお料理
いぬぬっこ
児童書・童話
ナナは七歳の女の子。
ある日、ナナはお母さんが仕事から帰ってくるのを待っていました。
けれど、お母さんが帰ってくる前に、ナナのお腹はペコペコになってしまいました。
もう我慢できそうにありません。
だというのに、冷蔵庫の中には、すぐ食べれるものがありません。
ーーそうだ、お母さんのマネをして、自分で作ろう!
ナナは、初めて自分一人で料理をすることを決めたのでした。
これは、ある日のナナのお留守番の様子です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる